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怪傑スダ ~迷いのシバ~

バイト先の冷凍食品センターの社員であるオーシバさん。

彼が担当する納品先の和食レストランが、先月から先週までの
間に7店舗増え、28店舗になりまして・・

当然、物量は増え、仕分場のスペースが手狭になってしまい
ました。

この和食レストランは、午前9時までに納品するルールになって
いるようで、前日の午後4時から7時までの3時間で、納品する
商品を出庫、仕分けなければなりません。

そして、翌日早朝に再検品してから積込み、出発するわけです。

しかし、午後4時から7時までの時間帯は、翌朝配達分の出庫と
仕分けのラッシュでもあり、どこのチームも慌ただしいのです。

で…

このオーシバさんと言う人は…

まだ27歳と言うことで、センター内社員の中では最年少。

そんな若いオーシバさんですが、やるコトが遅い。。。

まず、作業の取り掛かりが遅い。

無駄が多い。

手がノロい。

作業中も周りの若手バイトたちとムダ話ばかり。。。

  おいっ!
  オーシバ!
  おめー、エエ加減にしとけよーー!

と、センター長が駆け込んできて、怒鳴り声を浴びせるのです。

当然ながら、作業の終了時間が遅くなるわけで…

限られた仕分場のスペース。。他のチームや、他の納品先の
出庫、仕分作業に影響が出てしまうわけです。

  おいっ!
  オーシバ!

オーシバさんたちは、僕らの作業場所から東側に位置しており、
彼らの様子を見ることが出来るのです。

  おめー、エエ加減にしとけよーー!

こうしてセンター長の怒鳴り声が響いているのに、バイトたちと
話に夢中になっているオーシバさんは、反応しません。。。

  おいっ!こらっ!
  オーシバ!

ここでようやく…

オーシバさんは、センター長が自分の真後ろに立っていることに
気づいたみたいです。。。

  !!…!

びっくりして、思わずのけ反るオーシバさん。

  おめー、エエ加減にしとけよーー!

さらに怒鳴るセンター長。

  何でこんなに遅くなるンや、おめーはッ!
  今、何時やと思っとるンや!?
  もう7時やぞ!
  いくら物量が増えたからって、
  これだけの量なら3時間も
  掛からんやろ!

  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・

オーシバさんは、ヘラヘラ笑いながら、無言で頭をペコペコ
させるだけ…

  ノダの作業が遅れてまうやろ!
  早く場所を空けたれ!

オーシバさんの和食レストランへの作業完了後、この場所は
ノダさんチームの弁当チェーン店への出庫などに使用される
ことになっています。

なお、この弁当チェーン店の物量は、それほど多くありませんが、
やたら商品の発注単位が細かく、仕分けに手間が掛かるので、
少しでも早くスタートさせたいわけです。

それで結局…

ノダさんチームのバイトが数人、オーシバさんチームの作業を
手伝って、何とか7時15分頃には切り替え出来ました。

  おいっ!
  おめー、エエ加減にしとけよーー!
  ノダへの迷惑を考えろや!
  モタモタ、モタモタやりやがって!
  おめー1人の作業場じゃねーンだぞ!
  わかっとるンか!?
  なぁ?
  慌てて作業してミスするくらいなら
  落ち着いて作業しろと言ったけど、
  ムダ話してモタモタやれとは言っとらんぞ!
  なぁ?
  エエ加減にしとけよーー!

  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・

さすがにオーシバさん、センター長から怒涛のように罵声を
浴びせられ、しょげ返っているようです。。。

  だいたい、何回同じコト言わせるンや!?
  おめーはッ!
  少しは反省して、チャッチャと動けや!
  ホントにおめー、エエ加減にしとけよーー!

尚もセンター長の罵声は続きます。

しかし、ここで…

  センター長。相手はオーシバくんです。
  もう少し穏やかに…

スダさんが間に入り、センター長に、そう言いました。

  ん?

いきなりスダさんから声を掛けられ、これ以上、怒鳴る気を
失くしたのか、センター長は、ちょっとだけ唸ってから、
作業場から出て行きました。

しかし、この…

  相手はオーシバくんです。

って、どういう意味…?

相手はオーシバくん… 相手はオーシバくん… 妙に僕は、
ここに引っ掛かりました。。。

でも、当のオーシバさんは、別に気にする様子もなく、ポカンと
口を開けて、スダさんを見ているだけ。。。

それから10分ほど経った頃・・

  おいっ!
  オーシバよぉ!
  おめー、エエ加減にしとけよーー!

今度は2人のドライバーが、作業場へやってくるなり、オーシバさんを
怒鳴りつけました。

  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・???

いきなり怒鳴られ、当惑しながら無言で突っ立っているオーシバさん。

  おいおいっ!
  オーシバよぉ!
  何とか言ってみろ、コラッ!

  マジ、エエ加減にしとけよーー!

  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・???

2人から怒鳴られても、何のことだかわからない様子のオーシバさん。。

  おめーは、また納品店舗を
  間違えやがって!

  オレの納品店舗に、こいつの納品店舗の
  カゴ車が積まれとったがや!
  どーしてくれるンや!?

  ロクに検品せずにテキトーに
  積み込みやがって!
  オレらの迷惑も考えろ!

  何とか連絡取り合って、途中で合流して
  カゴ車の交換ができたから良かったものの…。

  今何時だと思っとるンや!
  7時半になってまったやろ!
  おかげで2時間も遅くなってまったやろ!
  エエ加減にしとけよ――!

  どーしてくれるンや!?
  オーシバ!
  エエ加減にしとけよーー!

2人は、血相変えて容赦なくオーシバさんを攻めたてます。

センター長からも、この2人のドライバーからも散々、怒鳴られ、
今、たぶん、オーシバさんの頭の中は、

  エエ加減にしとけよーー!
   エエ加減にしとけよーー!
    エエ加減にしとけよーー!
  エエ加減にしとけよーー!
     エエ加減にしとけよーー!
   エエ加減にしとけよーー!
  エエ加減にしとけよーー!
    エエ加減にしとけよーー!

この言葉でいっぱいになっていることでしょう…。

ぷるぷるっ…

オーシバさんは、いわゆる持病の片頭痛らしく、ひどくヘコんだ
表情で頭を小さく振るのでした。

  エエ加減にしとけよーー!
  オーシバよぉ!
  おいっ!

今にもつかみ掛かるほどの勢いで怒鳴りまくるドライバー。

その時です!

  まあまあ、これくらいにして…
  これ以上、オーシバくんを攻めても、
  あんたたちの帰りがますます遅く
  なるだけです。
  オーシバくんには私からも話して
  おきますので、この辺にしてやって
  ください。

これまでに見せたことのないような穏やかな笑顔を見せながら、
スダさんが、やわらかく諭すようにドライバー2人に言いました。

変わった!

ホント、スダさんは変わった!

このセンターの社員になる前、笹やんから“狂犬”と呼ばれて
いたスダさんですが・・

  スダは結婚してから
  丸くなった。


  あいつ、ここへ来て、
  ようやく成長した。


  結婚してよかったわ。
  前と違って、顔つきが
  やわらかくなった。

などなど、熟年女子バイトたちから、そんなことをよく言われて
いるのです。

こうして今・・

穏やかに笑い掛けながら、ドライバーに声をかけ、オーシバさんを
救おうとする姿・・

神対応!って言ってもイイと思います。

ドライバー2人は、これで拍子抜けしたのか、これ以上、怒る
気にならないようで、黙って作業場から去っていきました。

しばらく、ポツンと立っていたオーシバさん。

  やっぱり、もう辞めようかなぁ…。

誰に言うわけでもなく、ふと、そんなことを言いました。

そう言えば・・

まだ笹やんがいた頃、オーシバさんは、今のように仕事を続けて
行くことに悩み、笹やんに相談したことがありました。

あの時、笹やんは、

  仕事とは、働くとは…、
  暇つぶしだ!

そう言い切ったのでした。

どうせ暇で、ウダウダしているくらいなら、働いていれば、
それで金になる…

そんなに深く考えたり、悩んだりせずに、暇つぶしの感覚で
気楽に働け…って意味じゃないかと、僕は思っています。

オーシバさん自身は、どう受け止めたのか知りませんけど…

この笹やんの名言を授かって以来、オーシバさんは気がほぐれた
と言いますか、ゆるゆるになってしまったと言いますか…

仕事へのモチベーションが全くない!って感じになって
しまったようです。。。

  シバ…

スダさんは、オーシバさんのことを「シバ」と呼んでいます。

そう呼ばれ、オーシバさんは、ちょっとスダさんを見上げて、

  だって、この仕事、時間に追われて、
  身体もキツイし…
  その割に得るモノが少な過ぎる…。
  休みも週に1日だけだし、お盆も
  正月もないし…。

か細い声で言いました。

  シバ…

スダさんは、もう一度、そう言ってから、

  本当にやりたい事が見つかるまで、
  ここで働いていた方がいい。
  ただ辞めてしまうのは“逃げ”だ。

静かな、しかし、力のある声で言いました。

オーシバさんよりも、何倍もの納品先軒数、物量をこなしている
スダさんの方が、はるかに時間に追われ、身体もキツイわけで…

そんなスダさんから言われ、オーシバさんも胸に響くモノを
感じたのでしょう。

目を潤ませ、じっとスダさんを見上げるオーシバさん。

  また何かあったらオレに言え。

ポンと軽く、オーシバさんの肩を叩いてやるスダさん。

イイ光景だ!

これ、マジでイイ光景です!

ちょっと違う角度から見た場合…

これでオーシバさんは、完全にスダさんの“シモベ”と化した
わけですが。。。

でもまぁ…

こうして迷える若者・オーシバを、センター長とドライバーたちの
怒涛のような罵声から救った怪傑スダ!

以上「エピソード2」でした。。。
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