________________________________________________________________________

笹やん 最終回

今日は火曜日ですが、大晦日と言うことで、バイト先の
冷凍食品センターが、1年で最も忙しくなる日なので、
バイトに駆り出されています…。

それよりも何よりも・・

今日が、我らの笹やん、最後の勤務。

お別れになってしまう日なのです…。

そして、それよりも何よりも・・

もう朝からバタバタでして、今、笹やんチームの面々は
「消えた冷凍伊達巻き事件」に手を焼きまくっている
わけです。。。

笹やん担当の納品先である惣菜販売のテナント店舗である
A店へ納品するはずの冷凍伊達巻き5ケースが、配送便に
積み込まれていないとの連絡が、その便のトラックドライバー
から入ったのが、午前8時少し前・・

出庫伝票、在庫数量を確認しましたが、間違いなくA店分の
5ケースは出庫されており、在庫数量も現時点で誤差はありま
せん。

  積み込み先を間違えたんじゃ
  ねーのかっ!?

ってコトで、仕分け票、積込み検品票をチェックしましたが、
いずれも一応、間違ってはいません。

  ンじゃ、他の商品と間違えて
  積み込んだんじゃねーのかっ!?

ってコトで…

何しろ、この冷凍伊達巻きは、無地のダンボールの側面に
小さなシールで「冷凍伊達巻き」としか表示されていません
ので、他の無地ダンボール商品と間違えやすいわけです。

それで、間違えやすいと思われる他の商品の在庫なども
調べましたが、こちらも誤差はありません。

  消えてまった・・!
  冷凍伊達巻き、消えてまった!

  ンなバカな…。

  だって、どこにもないんやゾ!
  消えてまったンや!
  5ケース、消えてまった!

「消えた冷凍伊達巻き事件」です。。。

出庫したバイト、仕分けしたバイトなどは、まさに血眼になって
庫内を探し回っています。

  A店へ配達するドライバーは誰や?

笹やんも、辺りを探しながら、そう叫びました。

  Mさんです!
  ここへ連絡してきたのもMさんです!

  なにぃ!?

Mと聞いて、笹やんは、唇を歪めて険しい表情に…

  Mか…、アイツ、
  信用できんからナァ。。。

腕組みしながら、そう言う笹やんのところへ、センター長が
突進して来ました。。。

  おいっ!
  A店からクレームが入る前に、早く
  臨時便を立てて、5ケース納品させろや!

もう焦りを前面に出しまくった表情で、センター長が笹やんに
指示しますが、

  こんな日に臨時便なんて用意できる
  わけないじゃんねーっ!

ハナから笹やんは動こうとしません。。。

  臨時便がムリなら、おまえ、わりぃけど、
  5ケース積んでA店まで走ってくれ。

  そんなコトしてるヒマなんか
  あるわけないじゃんねーっ!
  こんなに物量が多くてバタバタなのに!

  A店からクレーム来てまうやろ!
  最後の日ぐらい、ちゃんとやれやっ!!

  最後も何も!
  ムリなモンはムリじゃんねーっ!

  おまえなぁ…

笹やんとセンター長が言い争っているところへ、A店分の商品を
カゴ車に積んだと言う男子バイトがやってきて、

  あ、あの…、ぼ、僕ぅ…、
  その間違いなく冷凍伊達巻きを
  5ケース、A店のカゴ車に積みました。
  今日の納品は、普段の倍以上で、
  カゴ車もA店だけで3台あって…、
  それで、あの、僕ぅ…
  念のために、Mさんにも声を掛けて
  おいたんです。
  「この伊達巻きを積んだカゴ車も
  A店の分です」って。

それを聞いた笹やん、

  やっぱり、そうですよ、センター長!
  伊達巻きは消えたんじゃなくて、Mの野郎、
  積んでいるのに、どこかへ紛れ込ませて、
  それで「ない!ない!」とか言って騒いで
  やがるんですって!

ズバリ!断言しました。

  う~ん…。

センター長も、顎に手をあてながら唸っています。

その後すぐに…、午前10時頃だったと思います。

事務所からパートの女子社員が駆け込んできて、

  センター長!
  ドライバーのMさんから、今、電話が
  あって、例の伊達巻き5ケースなんだけど、
  別のカゴ車に移動させたまま、忘れちゃって
  いたみたいで、それで、A店に引き返して
  納品してくるって言ってたわ。。

ってコトで…

  そンだけかーいっ!!

  あのバカ!
  死ね!

センター長、笹やん、それぞれ大声を上げました。。。

これが「消えた冷凍伊達巻き事件」のあまりにも情けない
結末でして。。。

そして、センターに戻ってきたMさんは、笹やんからボロクソに
怒鳴られることに…

  オメーのせいで、どんだけバタバタしたと
  思っとるンや!
  この野郎!

  そんなに怒鳴らんでも…
  荷物が邪魔で移動させたの
  忘れただけで…

  忘れるなっ!
  バカヤロ!

  何しろ、オレ、ずっと配達してて、
  48時間、寝てないンですけど。。。

  知るかっ!
  ボケ!
  オメーの要領が悪いだけやろ!

  何しろ、めっちゃ物量多くて、
  普段の倍以上、時間掛かって、
  それでオレ、48時間、寝てないンですけど。。。

  知るかっつーの!
  それより、オメー…
  なんかくせぇーな!

  48時間、寝てないンですけど。。。

  いや、48時間っつーよりも、オメー…
  4週間以上、風呂に入ってねーンじゃねーのか?

  入っとるよー!

  じゃ、なんでそんなに
  くせぇーんだ!
  風呂に入ってねーだろ?

  入っとるよー!

  じゃ、なんでそんなに  
  くせぇーんだ!

  ・・・・・・・・・・・・・

笹やんが言う通り、Mさんの身体からは異様な匂いが…

それは汗と尿と垢など、それらのモノがゴチャ混ぜになった
ような…

それも、こんな低温庫内で、これだけ臭うわけですから、
余程のモンだと思うんです…。

・・って感じで、この一件は、Mさんの異様過ぎる匂いで
うやむやになって行ったのでした。。。

そして、午後8時15分・・

一通り、この日の仕事を終えた僕らは、笹やんの前に集まり
ました。

熟年女子バイトでリーダー格のキノシタさんが、洒落た包装紙に
包まれた小さめの箱を笹やんに渡しました。

  これ、みんなからのプレゼント。
  みんな、300円ずつ出してくれて、
  それで「コーチ」の長財布を
  プレゼントすることにしたの。
  これなら邪魔にならずにバッグに
  入れて博多まで持って行けるでしょ?

笹やんは、照れくさそうに受け取ってから、

  財布より、これの中に入るモノが
  欲しいな。。

と言いました。

  なに言ってンの!
  娘さんたちのお手伝いして、
  ガッツリ稼げるでしょ。
  めっちゃ忙しくなりそうじゃないの?

笹やんは、3、4日ほどで荷物をまとめ、娘さん夫婦が営む
小料理屋の手伝いをするため、博多へ行くことになったのです。

小料理屋だけでなく、高級会席弁当や松花堂弁当の通販が
大当たりしているそうで、それで娘さんが、笹やんを呼び
寄せたわけです。

  それじゃ、笹やん、頑張ってね!

  元気でね。笹やん。

バイトたちが、次々に笹やんに声を掛けながら、握手をして
いきます。

  おう、ありがとナ。

笹やんも、声を掛けながら応じています。

  おまえには、一番世話になったナ。

キノシタさんと握手した際、笹やんが、そう言いました。

思わず涙ぐむキノシタさん・・

周りの熟年女子バイトも惜別の涙・・

  おまえにも、いろいろやってもらったナ…。

僕と握手した時、笹やんが、そう言ってくれました。

こんな時は、そんな短い言葉で充分、胸が熱くなるものです。

福岡か・・

もう笹やんに会えないかもなぁ・・

ところで・・

笹やんの後任は、スダさんが引き受けることになりまして・・

若手バイトリーダーであったスダさんは、来月から、ここの
正社員として働くことが決まりました。

さらに、スダさんは、今、付き合っている女性と、3月に
結婚することが決まっているそうで・・

  そうか、スダさんも身を固める
  覚悟なんだ。

ってコトです。

ここの内容をよく知っているスダさんなら、大丈夫だと
思いますし、キノシタさんたち有能な熟年女子バイトも
引き続き、活躍します。

僕も、毎週日曜日は、ここでバイトを続けます。

最後に、笹やんとスダさんが熱い握手を交わしました。

  ま、頑張ってくれや。

笹やんが言うと、

  おっす!
  オレ、笹やんの教えを引き継いで
  やって行きます!

そう答えるスダさんに、

  こんなヤツの教えなんか、
  引き継がんでエエわ!

横からセンター長が口を挟みました。。。

こうして、2019年が終わり、笹やんの勤務も終わって
いったのでした。
にほんブログ村 オヤジ日記ブログへ
にほんブログ村




nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感