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怪傑スダ ~マグロ置き場の挑戦~

バイト先の冷凍食品センターには、みんなが「マグロ置き場」と
言っている超低温庫があります。

狭い冷凍庫で、冷凍マグロ専用の保管庫になっています。

庫内温度はマイナス60℃…

これが超低温庫と呼ばれる所以です。

ここでの入出庫作業については、5分以内と定められています。

5分を超えると、たちまち体調を崩すか、場合によっては死に至る
こともあると言う恐ろしい倉庫なのです…。

で…

現在、春休み、あるいは、年度末と言うこともあってか‥

人の動きが活発みたいで・・

毎年、この時期は物量が増えて忙しくなります。

スダさん担当の回転寿司チェーンの物量も多く、加えて「マグロフェア」
の期間中と言うこともあって、冷凍マグロの出庫が激増しています。

午後1時過ぎ・・

昼休みから戻って、庫内の作業場に行ってみると・・

  ムリだよ!
  もぉー!

リフトマンのカワサキさんが、同じくリフト専任のタカハシさんに
大きな声で言っていました。

  う~~ん‥

タカハシさんは腕を組みながら、さも困ったように唸っています。

  これじゃ間に合わないよ!

カワサキさんは、また大声で言いました。

  う~~ん‥

  ホントにムリだよ!

  う~~ん‥

  タカハシさんからセンター長に
  頼んでみてよ!

  う~~ん‥

先ほどから、タカハシさんは唸ってばかりで。。

その時、丁度、センター長が歩いてきました。

  あっ!
  センター長、イイところに・・

そんなカワサキさんの言葉に、訝しげな顔つきになるセンター長・・

そこで、カワサキさんから目で促されたタカハシさんが、

  今日は朝からマグロの出庫が多過ぎて、
  僕とカワサキの2人では、とても
  間に合いそうにないんです。。

と、センター長に言いました。

  で…?

訝しげな表情のまま、センター長は、タカハシさんを見て、気の
なさそうな返事をしました。。

  あいにく他の商品の物量も多いんで、
  リフトマンは、みんな手一杯で・・

  で…?

  特にマグロ置き場の作業は、
  みんな、やりたがらないんで・・

  で…?

と、ここでタカハシさん、さすがにムッとしたのか、やや声を大きく
して、

  庫内作業者から2人ほど、マグロの
  出庫作業に回してもらえませんかねぇ!

と言いますと、センター長は、のそのそとスダさんの方に寄ってきて、

  そう言うわけなんで・・

とだけ言って、また、のそのそと作業場から去って行ってしまいました。

  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・

その後ろ姿を、タカハシさん、カワサキさん、そして、スダさんも
しばらく無言で眺めていました。。。

やがてスダさんは、タカハシさんたちに向かって、

  回転寿司でマグロフェアをやっている
  だけでなく、ホテルのレストランでも
  マグロの企画があるらしく、注文の量が
  普段の倍以上だ!
  こちらも手が離せない状態だが、まずは
  出庫を済ませないと始まらない。
  よし!
  こちらから2人、応援を出そう!

と、快く応じました。

で…

応援にはタナベさんと僕が。。。

  気をつけてな!

スダさんが、僕たちに言いました。

  時々、ムリして体調を崩す
  ヤツも出ているから‥

そう付け足すと、横からヤマシタさんが言いました。

  マイナス60℃の中だと一気に
  白髪が増えると言う説もある!

すると、タナベさんが反応して、

  知ってる!
  マツモトの白髪(はくはつ)伝説だろ?

笑いながら言いました。

マツモトの白髪伝説…

それは、今から10年ほど前、当時、マグロ置き場の入出庫を担当
していたマツモトと言う人がいて・・

マツモトさんは、その頃、まだ30代前半だったそうですが、白髪が
目立ち、「若白髪」だと思われていたようでしたが、半年も経たない
うちに、ほとんど真っ白になってしまい・・

それだけでなく、目つきもおかしくなってきたようで。。。

マツモトさんは正社員だったので、各種の書類を提出しなければ
ならないのですが、その提出が毎回のように遅れていたそうです。

その当時、毎月の活動目標を各社員は提出することになっており、
前月の20日までに出さなくてはいけないのを、毎回2、3日遅れで
出していたそうで・・

そのうちに当月の半ば頃に、ようやく提出するようになったとの
ことで、周りを呆れさせていました。。。

元々、反応が鈍いところがあったみたいで…

人から何か言われても、すぐに対応せず、遅れてしまうようで。。。

これは笑い話になっていますが…

ある日、ドライバーに納品伝票を間違えて渡してしまったらしく、
そのドライバーが、間違った伝票を持ち帰ってきて、

  おい、マツモト!
  しっかりせい!
  おまえの脳みそ、凍っとるンか?

などと、マツモトさんをからかいながら叱ったそうです。

その時は、ヘラヘラしながら謝っていたマツモトさんでしたが、
翌日になって、

  誰が脳みそ凍っとるンや~!

って、例のドライバーに向かって、本気で怒鳴ったそうで。。。

怒鳴られたドライバーは、昨日のことなどすっかり忘れており、
ただただキョトン顔…

このようにマツモトさんは、反応が鈍いと言いますか、ズレている
と言いますか。。。

その頃、既にマツモトさんの頭は真っ白で…

  マツモトの野郎、頭の中も真っ白やぞ。。
  超低温庫で仕事すると白髪になるだけでなく、
  脳みそがフリーズしてまうンやぞ。。。

そんな噂がささやかれたそうな…。

さて・・

そんな話をしている時、スダさんが、タカハシさんの頭を見て、

  そう言えば、タカハシ
  おまえも、だいぶ白髪が増えた
  みたいだなぁ‥

と、少し笑いながら言いました。

まだ30代のタカハシさんは、自分の頭に手をやって、

  ええ、そろそろ僕もヤバいです。。

笑って言いました。

ところで、応援に選ばれた僕とタナベさんは、共に丸刈りでして…

もしかして、スダさん…

丸刈りだから白髪になっても目立たないとでも?

丸刈りは白髪になっても構わないとでも?

  おっと・・
  もうこんな時間だ!
  回転寿司のマグロを出さないと・・

と、カワサキさんが言い、タカハシさんとタナベさん、それと
僕は、超低温庫のマグロ置き場へ・・

回転寿司チェーンには、ミナミマグロのブロックを納品することに
なっており、1ブロックが5~10Kgほどあります。

16店舗分の総計が約300Kg。

ブロックにして38片になります。

ほかにはホテルからの注文で、本マグロのブロックが15Kg。

これらのブロックを2、3片出庫し、専用の保冷ケースに詰めます。

これで約5分・・

この保冷ケースをパレットに積んだら、またマグロ置き場へ・・

  くぅ~~~!
  クソ寒くて死にそうだ!

  ヤバい!
  足の感覚がおかしくなってきた。。

地に足が付いているのかどうか、わからないほど麻痺してきます。。。

タナベさんと僕は、何かに刺されるような痛みを覚えつつ、感覚が
おかしくなってきた手先で、ブロックを取り出し、ケースに詰めます。

  どう?
  キツいでしょ?
  オレらのツラさ、少しはわかってくれた?

カワサキさんが言いました。

  少しどころか、もう充分わかった!

タナベさんが答えます。

さらに出庫は増えたみたいで、近隣観光地のホテル、旅館からも
ブロックやカワラと呼ばれるマグロ片の注文が入ったようです。

  こっちの旅館は早朝便に積み込むから、
  優先して出してくれ!

  えぇ-!
  まだあるの--?

ここでの作業に不慣れな僕とタナベさんは、そろそろ限界・・

その時です!

ガチャッ!!

マグロ置き場の重々しい鉄扉が開く音・・

  お疲れ!
  交代するぞ!
  早く出ろ!

スダさんの声です!

素晴らしいタイミングでやって来てくれました!

こうして、僕とタナベさんは恐ろしいマグロ置き場から解放された
のでした。。。
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