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笹やん 新体制

今月から、バイト先の冷凍食品センターでおこなわれている
「ミスゼロ推進活動」の活動、管理体制を変えよう!

ということになっていましたが、ようやく今日になって
詳しい内容が、僕らバイトに通達されました。

先週の火曜日、木曜日にも説明会が開かれ、バイトにまで
通達したそうで、今日、日曜日も、わざわざコンサルタントの
人を呼んで、説明会を開きました。

さほど広くはない会議室に、センターの社員とバイト合わせて
70人ほどが集められ、全員が椅子に腰掛けることが出来ず、
部屋の後ろで立って説明を聞かなければならない人もいました。

午後1時半のことです。

わざわざ作業を一時停止させてまで、息苦しい一室に70人ほども
押し込めて、一体どんな説明会があるのだろう…、

そんな感じで、バイトたちはキョトキョトと辺りを見回し、
席に着く者もいれば、ヤル気ない表情をあからさまにして、
のそのそと入室して来る者もいました。

やがて、

  えー、皆さん、お疲れ様です。
  今回で3回目の説明会になります。
  一部の人は、この前の火曜日、木曜日の
  説明会に出て、既に内容を聞いている人も
  いるかと思いますが、全員出席という
  ルールですので、最後まで聞いてください。
  えー、それではコンサルのイシダさんから、
  まずはお願いします。

センター長がそう言って、説明会は始まりました。

そのセンター長に紹介されたコンサルのイシダさんは、相変わらず
ドぎつい化粧で大きな顔を塗り固め、鼻をつまみたくなるほどの
香水の匂いをまき散らし、何だかキラキラ光る紫色のスーツを
着込んで、澄ました顔で70人の前に立ちました。

  お疲れ様です。
  ミスゼロ推進活動コンサルのイシダです。
  4月に入り、まぁ、新年度ということで、
  この活動も新たな体制で、これまで以上に
  充実させていこうと言うわけで、先日、ようやく
  骨子が固まりました。
  それで説明会を開き、皆さんに理解して
  いただいた上で、この活動を進めて行きたいと
  思います。
  この活動は皆さんご自身のためにやることであり、
  ここのセンターの環境をよくするため、そして、
  得意先に高い評価をいただくための重要な活動なんです。
  そこのところを改めて認識していただき、説明を聞いた後、
  さっそく活動を実践していただきたいと思います。
  それじゃ、再びセンター長から説明していただきます。

およそ、こんなことをイシダさんが話したかと思います。

何だか、僕らを見下すようなエラそうな目線で話していました。

その間、チラッと斜め前に座っている笹やんを見ると、どうやら
彼は鼻をほじっているような…、そんな仕草が見えました。。。

正面のスクリーンに組織図のような図を投影し、センター長が
指示棒を持って、コホンと咳払いをしてから説明を始めました。

  えー、これまでは活動のリーダーを
  イトー君に務めてもらってましたがぁ…

そう言って、指示棒でスクリーンの一箇所を指したセンター長。

  えー、今回の新体制では、わたしが
  務めることにします。
  わたしが活動リーダーになります。
  が、いいですか? 
  が、しかし…、
  いいですか?
  リーダーはわたしですが、わたしもセンター長と
  いうことでアレコレ管理しなければならない
  仕事があって手が回らないことが想定されるんでぇ…、
  いいですか?
  あくまでもリーダーとしての統括はわたしがやります。
  が、しかし…、
  リーダー補佐として、実際に皆さんを指導、教育
  するのはイトー君と笹○さんです。
  リーダー補佐を2名体制にして、きめ細かい指導、
  きめ細かいチェックをしていこうと言うわけです。
  さらに…、
  さらにぃ、今回の新体制では…、
  オノダ君…、おい、オノダ!

センター長は説明を中断させ、バイトのオノダさんの方を見て
言いました。

  オノダ!何やオマエ、
  眠そうな目で、どこ見とるンや!
  説明会なんだから、ちゃんと
  聞く姿勢になれよ!
  なぁ?

センター長から注意され、オノダさんは首をすくめるような
恰好でペコペコと頭を下げていました。

その様子を、笹やんは楽しげに眺めているのが後ろから
窺えました。。。


  えー、それで、今回の新体制ではぁ…、
  えー、他のセンター社員全員にも
  活動項目の担当を担ってもらいます。
  これにより全社員の意識付けを高めようと
  言うわけで、各社員は自分たちのバイトを
  指導すると共に、定期的に担当の活動項目に沿って、
  業務を進めてもらいます。
  とは言え、決して負担になるほどのモンじゃない
  ですから。
  いいですか?
  余計な仕事が増えたなんて思わないでください。
  それとバイトの皆さん。
  今後、社員から皆さんにも細かい指導があり、
  皆さんにも活動項目を一部、担当してもらいます。
  みんなで活動していく…、
  そんな姿勢を打ち出した体制になりますから、
  よろしくお願いします。

スクリーンには、活動項目と、その具体的な内容説明が映し出され、
それぞれについてセンター長が説明していました。

が、しかし…、

あまり聞いているような人はいなかったでしょう。

僕自身、めっちゃ眠かったですし、

  zzz…
  zzzzz…

かすかにイビキの音が右横から聞こえてきたような気がして、
そちらを見ると、名前は知りませんがバイトの一人が、ゆったりと
頭を後ろに傾け、かと思うと、前の方へ傾いていき…、

明らかに熟睡状態です。

ガタタッ!

やがて、そのバイトはバランスを崩したのか、椅子から転げ
そうになるのを、机に肘をつき、辛うじて防いだようでした。

ププッ…

誰かが吹きだすように笑いました。

つられて、その周りの数人も、笑いを堪え、肩を揺すって
いるのが見えました。

熟睡から目覚めたバイトは、センター長から、熱い熱い光線でも
発しているかのようなキツい目線で睨まれ、カッチカチに委縮
して固まってしまいました。。。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・

5秒、いや10秒ほどでしょうか。

気まず過ぎる沈黙が、一室を支配しました。

みんな、恐ろしい沈黙の圧力に動けなくなっています。

そんな中、笹やんを見ると…、

笹やんもまた、眠っているようです。

ゆらりゆらり…、わずかですが首を前後に揺らしています。


  笹やん、寝てる…

後ろからでもハッキリわかりました。

この圧力に屈することなく、笹やんだけが眠り続けているよう
です。。。

  みんな、真剣さが足らん!
  自分のことだと言う自覚がない!
  今後、この活動ができない人は辞めてもらうゾ!

センター長の一喝が沈黙を破り、笹やんの眠りも破ったようです。

笹やんの、ハッと覚醒した様子がわかりました。

センター長は、チラリと笹やんに目をやったようです。

  えー、それじゃ…、
  わたしからの説明は以上で、
  この後、一言ずつ、リーダー補佐の
  イトー君と笹○さんに挨拶してもらいます。
  まずイトー君から。

指名され、イトーさんは何故か目をキョロキョロと高速で泳がせ、
これからもよろしくお願いしますなどと挨拶しました。

続いて笹やん…

神妙な顔つきで前に立つと、しばらく宙を見据えるようにしてから、

  えー、新体制ということで…
  これからミスゼロ推進活動のリーダー補佐と
  いうことで…、
  新体制でやらさせていただきますんで、
  どうぞよろしくお願いします。
  えー、なるべく無理のないように、
  みなさんに負荷が掛かり過ぎないように
  やっていきたいと思ってますが、
  センター長…、リーダーの指示があれば、
  みなさんに指導、教育をおこなわなくては
  なりませんので、その時はちゃんと聞いて
  実行してください。

など、モットモらしいことを話していました。

こうして1時間ほどで説明会は終了し、それぞれ作業に戻りました。


  ちぇっ!
  ったく!
  1時間もタイムロスしちゃったよ!

作業現場で、笹やんがそう言ってフォークリフトに乗り込みました。

僕は、仕分表に記載されている商品や数量と、現物が合っているか
確認していると、

  おい、いいよ、いいよ…。
  時間なくなったから
  チェックしなくてもいいよ。
  大丈夫だろう。
  ちゃんと合ってるから、
  さっさと仕分けてくれ。

笹やんが僕に言いました。

ミスを防ぐため、仕分前に仕分表と現物を照合することが
ミスゼロ推進活動のルールになっているのですが…、

新体制のもと、リーダー補佐に任命されたばかりの笹やん…、

さっそく自らルールを無視しています。。。
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