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笹やん 放浪記

午後3時過ぎの休憩時間…

僕らは、作業場から外へ飛び出し、事務所脇に設けられた
自販機で、缶コーヒーなどを買って、ひと休み。

笹やんは、ドカッとベンチに腰掛け、タバコを加えると、
ライターで火を点け…

プカ~っと、さもうまそうに煙を吐き出しています。

そんな笹やんを見ながら、バイトのスダさんが口を開きました。

  あのサ、笹やんさん…
  オレ、ちょっと聞いてもらいたい
  コトあるんだけど…

若手バイトのリーダー格・スダさん。

笹やんから“狂犬”と呼ばれることもあり、活発で仕事振りには
定評がありますが、時々ブチ切れて、他のグループとケンカする
こともあります。。

そんなスダさん、普段と違って、ちょっと神妙な顔つきです。。。

  ナンか? スダ…。
  オンナの話やったら、もう少し待っとれ。
  トモ子はオマエのこと「嫌いじゃないけど、
  よくわからない」っちゅーとったゾ!
  あいつのコメント、毎回わかりづらいナ。。

笹やんは少し前から、このバイト先の冷凍食品センターで
事務処理を任されている派遣社員の若い女子を、スダさんと
付き合わせようとしているみたいです。

  笹やんは陽気な恋のキューピット☆

そう言って笑っている熟年女子バイトも何人かいて、どうやら
笹やんは、これまでに何人もの男女の仲を取り持とうと…

していたらしいですが、成立したことが一度もない!って
ある熟年女子バイトから聞かされたこともあります。。

  いや、別に…
  トモ子は別にイイけど…

スダさんは、少し顔を赤らめて言いましたが、その後すぐに、

  その話じゃなくて、実は…

やっぱ、今日のスダさんはおかしい!

いつもと違って落ち着き過ぎている…!

  実は、オレの知り合いが…
  知り合い…っつっても、時々、
  連絡取り合うくらいで…
  で、そいつが…
  この前の金曜日の朝、部屋で死んでるのを
  見つけられて…
  心筋梗塞…ってヤツらしいけど。。
  ずっと一人暮らしで、アパート住まいで…
  オレと同じ31歳で…
  そうかと思えば、これは1つ年下で、
  そいつもフリーターなんだけど、
  金に困っていたらしく、バイト先の
  居酒屋の売上金に手をつけて捕まっちゃって…

だんだん思い詰めたような顔つきになって、スダさんは真剣に
笹やんへ話を続けるのでした。

  それで、そんなことが続いて…
  それで、オレ…
  オレ、このままでイイのかなぁ…って
  思うようになっちゃって。。

スダさんは、いわゆるフリーターです。

ここのバイト歴は長い方で、ここをメインにして、他でも
掛け持ちで稼いでいるそうです。

彼は、突発的に歌い出し、ギターを弾いている仕草をして
みせることがよくあります。

ミュージシャンを夢見ているのか、定職に就かず、こうして
バイトで生計を立てているようですが…

今、彼の知人の死。また別の知人の悲惨な顛末を知らされ…

彼なりに、自身の将来に不安を覚えたのかも知れません。

それで…

笹やんに…

  そうだ!
  笹やんがいるじゃないか!
  天真爛漫!荒唐無稽な笹やんが!

って、ここは僕が勝手に脚色しています。。。

スダさんの真意に沿ったわけじゃありませんし、笹やんを
天真爛漫とも荒唐無稽とも決めつけるつもりはありません。
どうもスミマセン。。。

でも、とにかく…

  そんな笹やんなら、何かオレに
  元気をくれるかも!

そんな期待もあり、ここでスダさんは、笹やんに話したのでは
ないでしょうか?


  オレって、このままでイイのかなぁ…

再び同じことを口にするスダさん。。

すると、笹やんは吸っていたタバコを揉み消し、吸殻入れへ
投げ捨てると、こう言いました。

  で…、まずオマエ、
  どうなりたいンか?
  どうしたいンか?


  え‥!?


  オレはなぁ…

イイ感じです!

この時の笹やん、少し遠くを見つめるような目をしてから、
スダさんを真っすぐに見つめるのでした。

  オレはなぁ、オマエと同じ歳の頃、
  そうやって店の売上を盗んだヤツ
  追い駆けて、借金の取りたてを
  やったことがあった…。

ゴクッと、スダさんが唾を飲み込む音が聞こえました。

きっとスダさんは、笹やんのこれからの話に期待を寄せたので
しょう。

笹やんが話を続けます。

  オレはこう見えても金を盗んだことは
  一度もない。
  そんな金は要らん!
  だけど、盗んだヤツを捕まえて
  金が貰えると聞いて、オレは動いた。。
  悪いコトじゃねえ。
  そうだろ?
  しかし、だ…、、

笹やん、ここで、もう1本、タバコを加えて火を点けました。

  そのうち相手はチンピラを雇って
  歯向かって来やがった。

プカ~っと鼻から煙を吐き、笹やんは話を続けるのでした。

  こっちも若い頃だったンで
  殴り合いだ!
  先のことなんか考えちゃいねぇ。。
  その場しのぎで、チンピラ殴って
  イイ気になってた。。

ここで、わずかにスダさん、無言で頷いたようです。

スダさんだけじゃなく、日頃、笹やんから「スダ一門」と
呼ばれている若手バイトたちも、固唾を飲んで聞き入って
いるようでした。

  その後の事だ…。
  チンピラの野郎ども、集団で
  襲ってきやがった!
  全くチンピラっつーのはタチが悪い!
  一人じゃ何もできねークセに、
  集団になれば何とかなると思って
  いやがる!

ここでもう一度、スダさんが、ゴクリと唾を飲み込んだ音が
聞こえたのでした。

フワ~~ッと鼻の穴から煙を吐いて、笹やんは話を続けます。

  6人、7人だったか…
  みんな、痩せこけたチンピラだった…。
  思わずオレは、ポケットに入っていた
  カッターナイフでチンピラの1人を…
  そいつの唇から頬までを…
  切りつけてやった。。
  野郎どもがひるんだ隙に、もう1人を…
  たぶん、腕の辺りだったと思う。
  切ってやった。
  その後、少し殴ったり蹴ったりして、
  逃げた…。
  あんな野郎どもといつまでも付き合って
  いられねえ!
  とにかく逃げた。

と、ここでスダさん、唇を引き締めて大きく頷くのでした。

  その後、12月だったなぁ…
  お歳暮シーズンだった。
  依頼主のオヤジがオレのところへやって来て、
  お礼にと言って、小さな箱を渡してくれた。
  その場で中身を開けてみると…
  5種類ほどの刃が入っているカッターナイフの
  セットだった…。
  コレ「ありがとう」って受け取ってイイのか…
  それともオレのことバカにしてんのか…。
  ちょっと迷ったが、とりあえず貰っておいた。
  しかし、引っ越しの時に、うっかり捨てて
  しまったらしく、結局、使うことはなかった…って、
  使っちゃアカンやろ!
  なあ、スダよぉ!

と、笹やん、大きな声で笑うのでした。

見れば、スダさん…

少し眼を赤くしているようで…

  チンピラをカッターナイフで切りつけて
  しまったことは悪いコトだと思ってる。。
  でも、やならきゃ、こっちがやられてた…。
  アイツら、集団で嗅ぎ回るらしいので、
  オレは田舎を飛び出すことにした。
  あんなヤツらに関わるのはご免だ。
  とは言っても、北九州の田舎から福岡へ
  移った程度のことだ。
  
ここで笹やん、実にのんびりとした表情になり、ベンチの背もたれに
身を任せ、ふぅ~ッと大きく息を吐き、

  それから仲間と会社を興した。
  しかしナァ…
  今度は借金を取り立てられる身になっちまって…。
  会社が借金を作ったンだ…。
  毎日のように取り立てが来たところで  
  オレの知らない借金だ。
  オレの知ったコトじゃねー!
  だからオレは、福岡を飛び出した。。
  飛び出すはイイが食って行かなきゃならん!
  あの当時、九州にいるより、こっちの方が
  仕事のクチが断然多いと聞いていたンで、
  ぶらぶら寄り道しながら、ここまで来て…
  このセンターで働く前は、コンクリート
  ミキサーに乗ったり、トンネル掘ったり、
  いろいろやった…。
  その間、何人かオンナもできた。
  会って別れて…、結婚して子どもができて…
  離婚して…、またオンナできて…
  なあ、スダよぉ!
  それで今、オマエより30以上も歳食って、
  こうして缶コーヒー飲みながら、つまらん話を
  しているわけだ。  
  ワッハッハッハハハ!

と豪快に笑ってから、笹やん、顎の不精髭を撫でて…

  スダ…、
  オマエ、どうしたいンか?

そう静かに尋ね、スダさんをシッカリ見つめるのでした。

  まず、そこを考えろや。。
  それがわからんのなら、とにかく
  食って行かなきゃ…って気持ちを
  しっかり持て!
  人間、その気持ちさえあれば、
  いくらでも生きていける!
  このことだけはオレが保証してやる!


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・。。

スダさんだけじゃなく、僕ら周りにいたバイトたちも、
シーンとして聞き入っていました。

そして、いつしかスダさんは、何やら安堵したような、
ホッとした顔つきになっていたのでした。


笹やんの波乱万丈な若き頃…

そんな笹やんの放浪記を、わずかながら聞くことが出来た上、

  食って行かなきゃ…って気持ちを

って、とてもイイ台詞じゃないですか!

今日の笹やん、何だかカッコよかったッス☆
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LargeKzOh

 これ迄の ”笹やんさんシリーズ" から想うに、このお方はもの凄いバイタリティーをお持ちなんですねぇ・・・
 きっと逞しい人生を送られるのでは・・・
 少しだけ羨ましい感じもします。
 自分にはとてもとても・・・
by LargeKzOh (2018-03-11 22:29) 

あべしん

LargeKzOhさん、毎度ありがとうございます。

笹やんは、時には神のようであり…
またある時は悪魔のようでもあり…
さらにある時は変人であり、奇人であり…

つかみどころのない敬愛すべき人です。。

またよろしくお願いします。


by あべしん (2018-03-13 17:07) 

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