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笹やん 正露丸

バイト先の冷凍食品センターで、朝からバイトのハヤカワさんが
作業の途中にもかかわらず、たびたび姿を見せなくなるようで…

  あれ?
  ハヤカワの野郎、また
  どっか行きやがったナ…。

笹やんが舌打ちしながら、そう言って作業場内を見渡します。

それで4、5分経つと、ハヤカワさんが戻ってきます。

  おい、ハヤカワ!
  さっきから何やっとるンや!?
  勝手に脱け出すな!

笹やんに注意され、ハヤカワさんは、眩しそうな目つきで
笹やんを見上げたまま、ニタニタ笑っているばかり…

  黙っとらんと何か言え!
  ニタニタしやがって…
  気色悪いヤツだな。。。

そう言われて、ハヤカワさん、ボソッとした口調で、

  トイレ、行ってました。

と答えました。

  何や?
  さっきから何度もトイレ行ってたんかい?
  腹の具合でも悪いンか?

と、笹やん、心配そうな目ではなく、何故か意地悪そうな
目つきでハヤカワさんを見ています。。。

それに気づかずハヤカワさんは、片手で軽くお腹を押さえる
仕草を見せながら、

  ええ…、ちょっと…

そう言った後、やはりボソッとした口調で…

  あの…、
  事務所の救急箱に
  正露丸ありますよね?

と、笹やんに尋ねました。

  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・。。

ここで笹やん、しげしげとハヤカワさんを見つめました。

たぶん笹やんは、ハヤカワさんに対して、ちょっと感心
したんじゃないかと思うんです。

何でコイツは、そんなコト知っとるんや…?

って感じです。

それから笹やんは、ハッと気づいたように言いました。

  あ!
  そう言えば、前に補充しておいたばかりの
  バンドエイドがまるまる無くなっていたり、
  あるはずのサロンパスが無くなっていたり…
  アレ全部、オマエの仕業か!?


  ・・・・・・・・・・・・・・
    ・・・・・・・・・・・

今度はハヤカワさんが黙ったまま、眩しそうに笹やんを見て
薄笑いを浮かべました。。。

  オマエか、やっぱり…
  手癖の悪いヤツやなぁ…
  仕事の手は遅い癖に…

笹やんはそう言いながらも、ハヤカワさんに感心している
様子です。。。

まぁ、こう言っちゃ失礼ですけど…

確かにハヤカワさんは、仕事の手は遅いです。。。

それでも、ここのバイト歴は長い方で、もう10年近く続けて
いると聞きます。

ベテラン級でありながら、作業が遅く、ミスが多いのですが、
センター内のどこに何があるか…ってコトは実によく知って
います。

その部分にだけ、10年ほども勤続した成果が見られるわけです。。。

ハヤカワさんの実際の年齢は知りませんが、もう30に近いか、
30歳になっていると思います。

小柄、色黒、地味な外見、それでいて、つぶらな瞳が印象的です。

この瞳のおかげで、ハヤカワさんは、周りから嫌われたりせずに
済んでいると言ってイイでしょう。。。

決して風采の上がらない顔立ちに、真っ黒の妙にキラキラとした
瞳がインパクトあり過ぎで、そんな瞳で眩しそうに見つめられて
しまうと、周りの人たちは、彼がミスしても怒る気が萎えて
しまうのでした。。。

  あの…
  あの…、すみませんが…
  正露丸、もらってイイですか?

つぶらな瞳で、笹やんに懇願するハヤカワさん。。。

  アカンとは言えんわなぁ、
  そういう目をして言われると…
  今、持って来てやるから
  少し待っとれ。

苦笑いしつつ、そう言って笹やんは事務所へ行きました。

それからすぐ笹やんは、正露丸の瓶を手にして戻ってきました。

  パッパカパッパ~♪
    パッパカパッパ~♪
  パ~パッパッパッパッパッパァ~♪

  パッパカパッパ~♪
    パッパカパッパ~♪
    パ~パッパッパッパァ~♪

例のアノ…、誰もが聞いたことがあるアノ…

正露丸のテーマ…って言うんですか?

『ラッパのマークの正露丸!』って、アレです。。。

その正露丸のCMで流れてるリズムを、笹やんが大きな声で
口ずさみ、ハヤカワさんの方へ近づいて来るのでした。


  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・。。

ハヤカワさんは、つぶらな瞳をきらめかせつつ、若干、緊張して
いる様子。。。

何だろう…?って感じですかねぇ。。。

  パッパカパッパ~♪
    パッパカパッパ~♪
  パ~パッパッパッパッパッパァ~♪

正露丸のテーマを止めようとしない笹やん。。。

  パッパカパッパ~♪
    パッパカパッパ~♪
    パ~パッパッパッパァ~♪


  ・・・・・・・・・・?? ・・・・?
  ・・・・・・? ・・・・・・・・??

これに不安を覚えた様子のハヤカワさん。。。

緊張でますます具合が悪くなったのか、両手でお腹を押さえて
います。

  よし、飲め!
  ハヤカワ!

笹やんは、正露丸の瓶のフタを開け、ハヤカワさんの手のひらの
上に3粒取り出したようです。

  さあ、飲め!

これに対し、ハヤカワさんは、またボソッとした口調で、

  あの…、水…
  水がないと飲めません。

そう言いました。

が…

  正露丸は水なしで飲んだ方が効く!
  まずこれだけ飲め!

笹やんはキッパリ言い切るのでした。

ホントかよ?

そんな話、聞いたことねーぞ!

これはハヤカワさんだけでなく、周りにいた僕らも同様の感想
です。。。

しかし、苦痛に耐えられなくなったのか、ハヤカワさんは
言われるまま3粒の正露丸を口に放り込みました。

  どうか?
  具合、良くなったか?


  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・


  もう少し飲むか?
  手を出せ!
  もう3粒飲んどけ!


  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・


  どうか?
  まだ飲めるか?


  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・


  あと3粒飲め!


  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・


  何か!!
  オレの正露丸、飲めんのか!


  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・

って、酒の席みたいになってきた笹やんの言いっぷり。。。

で…

結局、水なしで9粒の正露丸を飲まされたハヤカワさん…

さすがに顔を歪めながら、トイレへ駆け込んで行きました。。。

それから10分ほど経ち…

意外とケロッとした顔つきで戻ってきたハヤカワさん。

正露丸が効いたみたいです。

  どうだ?
  ハヤカワ、もっと飲むか?

笹やんが笑いながら、正露丸の瓶をハヤカワさんの方へ向けて
言いました。

  いえ…
  もう、イイです…。

モジモジしながら答えるハヤカワさんに、

  臭っ!
  ハヤカワ!!
  おまえ、メッチャ正露丸くせぇゾ!
  おまえの口から正露丸の臭いが
  プンプンしてくるゾ!
  ってゆーか、おまえ、全身から
  臭っとるゾ!!

笹やん、思わず顔を歪めて大声で言いました。

当り前です…。

9粒も水なしで正露丸を飲ませたのですから…

しかも飲ませたのは、笹やん。あなたではありませんか。。。

ハヤカワさんは無言ながら、つぶらな瞳で、そう訴えている
ように見えました。

しかし、ハヤカワさんには申し訳ないですが、この段階で場内は
爆笑の渦!

その後、しばらくハヤカワさんは、笹やんと一部のバイトたちから
「正露丸」と呼ばれることになるのでした。。。

この正露丸というアダ名が、実にハヤカワさんにピッタリでして…

小柄、色黒、地味な外見、それでいて、つぶらな瞳…

これら全てが、

  小柄 ≠ 正露丸
  色黒 ≠ 正露丸
  地味 ≠ 正露丸

もちろん…

  つぶらで真っ黒瞳≠正露丸…

って感じで繫がってしまうのです。。。

  おい、正露丸!
  具合が良くなったんだから、
  もっと手を動かせ!

こんなふうに笹やんに呷られても、ハヤカワさんはニタニタ、
モジモジしながら、マイペースを守り抜いているのでした。。。
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