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怪傑スダ ~洗浄室の謎~

バイト先の冷凍食品センターでは、ケース単位ではなく、
バラ単位の商品は、クレートと呼ばれている荷造り用の
プラスチック製通い箱に詰めて配達されます。

クレートは、大から小まで、4種類のサイズに分けられて
います。

僕ら、庫内作業者は、仕分けの際、納品店舗ごとに、また、
商品の種類別、形状別にクレートを用いて荷造りをする
わけです。

各納品先には、クレートに商品を入れたまま納品しますが、
後日、クレートは配送便によって回収されます。

そして、回収されたクレートは、一旦、洗浄室で除菌洗浄、
温風乾燥された後、また仕分け時に使用され、配送便に
積み込まれていくのです。

クレートの洗浄機が置いてある洗浄室は、このセンターの
積込みスペースから、自動扉1枚隔てた所にあります。

洗浄機が、まあまあ大きくて長いので、それに合わせて
洗浄室は“うなぎの寝床”と言われるような長く細い空間
になっています。

納品先から回収されたクレートは、洗浄機の受け口に入れられ、
除菌液を噴射する工程から、温風による乾燥工程を経て、
取出し口から出てきます。

受け口から取出し口まではベルトで運ばれ、自動洗浄されます。

それでも、クレートを洗浄機へ入れるのも、取り出すのも
人の手が掛かるので、いつも最低4~5人が洗浄室で作業して
います。

そこの担当は、今年80歳になる朗らかで愛想の良いシーさんと
70半ばになる話好きなモトさん、二人の高齢パート社員です。

しかし、二人だけではキツいので、それぞれの庫内作業チーム
から、男子バイトが2、3人、持ち回りで洗浄を手伝うことに
なっているのです。

僕も何度かやりましたけど、作業そのものはクレートを運んで、
入れて、取り出して・・

まぁ、単調ですけど・・

単調なだけにタルい…っつーか、ボ~ッとしてしまうのです。

なので、1時間から、せいぜい1時間半が限界です。

それ以上やっていると、立ったまま眠ってしまいそうで。。。

そう言う意味で、シーさん、モトさんはスゴイです。。。

一日中、“うなぎの寝床”でクレートを運び、洗浄機に入れて、
取り出して、また運び、入れて、取り出し・・

またまた入れて、取り出して・・

で…

そんな洗浄室に、午後3時から4時までの予定で、スダさんチーム
から“みたらし”と呼ばれているタナベさんとハヤカワさんが
行ったのですが…

4時半になっても戻って来ません。

  みたらしとハヤカワのヤツ、
  どこでサボっているのか…?
  イイ加減に戻って来ないと
  仕分けが遅れるぞ。。

スダさんが、そんなことを言いながら、辺りを見回しています。

これから焼肉屋チェーンとマンガ喫茶の出庫、仕分けが始まり、
バタバタする時間なのです。

と、そこへ…

バタバタとハヤカワさんが作業場に駆け込んできました。

  おう!
  何やってたんだ!
  みたらしはどうした?

スダさんは、ちょっと声を荒げてハヤカワさんに言いました。

これに対し、ハヤカワさんは、やや緊張した顔つきで、

  あの、あの、あの…、
  タナベさんが…
  あの、あの…

乾いた声色で、スダさんに言いました。

  何だ?
  みたらしがどうかしたのか?


  あの、あの…


  落ち着いてしゃべれ!
  

  あの、あの…


  あの…じゃ、わからんやろ!
  みたらしがどうかしたのか?


  あの…


  しっかりしろ!
  ハヤカワ!
  あの…じゃなくて!!


  あの…


  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・

さすがにスダさん、唇を歪め、ハヤカワさんを睨みつけました。

そして、ハヤカワさんの胸ぐらを掴もうと腕を伸ばした時・・

  あの、タナベさんとバカバヤシ、
  ケンカしてる。。

慌てた口調でハヤカワさんが言いました。

バカバヤシ…

正確にはオカバヤシと言うドライバーです。

この50半ばのドライバーは、ささいなことで言い争い、周りの
ドライバーたちからバカにされているらしいです。

僕は、顔を知っている程度で、話をしたこともありませんから、
実際のことはわかりませんが。。

凡ミスも多く、他のドライバーが、バカバヤシと陰で言って
いるので、庫内の作業者の間でも、そう呼んでいるみたいです。

  ケンカ…?
  どこでだ?

スダさんが尋ねると、ハヤカワさんは「洗浄室で」と答えました。

スダさんは、洗浄室へ向かいます。

ついでに、僕ら数名のバイトも…

ワクワクしながら向かいます。。。

洗浄室の重々しげな自動扉を開けると…

果たして、みたらしとバカバヤシ(オカバヤシさん)がケンカを
しているみたいでした。

  あほんだらぁーーーっ!


  オメーが悪いんやろ!

そんな怒声が響いてきました。

ちなみに…

みたらしタナベさん、中学、高校時代は剣道部だったそうです。

僕も、直接、本人から聞いたことあります。

色黒で丸刈り、童顔でポッチャリ系のタナベさんですが、竹刀を
持たせれば、なかなかの腕前だとか・・

そんなタナベさんが、今、箒をブンブン振り回しているの
でした。

剣道の構えとは程遠く、それは、まるでガキのチャンバラの
ように、滅多やたら、ブンブンと振り回しているだけでした。

スダさんが、その様子を見て、思わず笑いつつ、こう言いました。。。

  あいつ…、
  ホントに剣道部かて…?

一方、バカバヤシはクレートを楯にするようにして応戦しながら、
大声をあげているのでした。

  みたらし!
  止めとけ!

スダさんの一喝!

その声に、シーさんが反応しました。

やや怯えた顔をしながらも穏やかに笑い掛けて、

  いやぁ、ワシがバカに注意したのが
  キッカケになってしまって…
  それでタナベさんが…

スダさんに言うのでした。

その内容は・・

オカバヤシさんが、これまでに配達し、回収してきたクレートを
溜め込んでいたらしく、大量に持ち込んできたのでした。

トラック駐車場の片隅に山のように溜めてあったクレートを
一気に持ち込んで、洗浄させようとしたので、シーさんが、

  おい、困るよ。。
  クレートは、その都度、回収して
  洗浄室へ持ち込んでもらうことが
  ルールだろ。

と言ったら、バカバヤシはキレてしまい…

  しゃーねーやろ!
  こっちは配達で忙しいンや!
  イチイチ持ち込めるか!

などと怒鳴り出す始末で。。。

そこでタナベさんが、

  こっちだって忙しいンや!
  こんなにクレート持ち込まれたら
  おまえらが配達する商品を出せんやろ!

などと反撃したところ、バカバヤシが、

  何やオメー、
  うるせーわ!!

そう言って、タナベさんを小突いたらしいです。

そこから一気に・・

タナベさんが室内に置いてあった箒を手にして・・

一方のバカバヤシは、大型クレートを手にして・・

チャンバラごっこの始まりです…。

事情を聞いたスダさんが、バカ…、オカバヤシさんに言いました。

  忙しいのはわかるが、だからと言って、
  溜め込んだクレートを一方的に持ち込み、
  それを洗浄させようと言うのはどうかと思う。

スダさんは、静かな口調で言ったのですが、バカバヤシは、

  だって、しゃーねーやろ!

声を荒げ、そう言うばかりで。。。

そこへタナベさんが口を出しました。

  こいつ、オレたち庫内作業者は
  人数が多いから1人、2人ぐらい
  どうにでもなると言いやがって!

すると、すかさずバカバヤシは、

  だってホントだろ?
  オレらドライバーは、1人で
  やらなアカンのやぞ!
  おまえらとは違うんやぞ!

やはり大声で喚くのでした。

  だからと言って、勝手に溜めた
  クレートをオレらに洗えと
  言うのは筋が違う!

タナベさんは、徹底的に口論する気です。

  しゃーねーがや!
  こっちは時間に追われて
  配達しとるンやぞ!


  時間に追われるのは
  こっちも同じや!


  だったら言わせてもらうけど、
  1日に10軒も配達させられる
  身になってみろ!
  おまえにはわからんやろ?


  そんだけの商品を出庫して
  仕分けしてるのはオレらだ!


  それがどーした!?


  何種類もの商品を、バラ単位で出して、
  それをクレートに納品先ごとにまとめて・・
  オメーみたいなバカにはわからんだろうな!


  誰がバカだ!
  バカにバカと言われる筋合いは
  ねーわ!


  おぅ、オレはバカだよ。
  でも、オメーとは違うわ。
  オレは自分をバカだと自覚しとる。
  オメーは自分がわかっとらん!


  何言っとる、このバカ!


  だいたい、毎回、ちゃんとクレートを
  出していたら、こんなふうに余計な時間を
  使うこともないやろ!
  それがわからんから、オメーはバカだ!


  だったら言わせてもらうけど、
  1日に10軒も配達したことあるンか?
  どんだけ疲れるかわからんやろ?
  言うのは簡単だけど、ドライバーの
  経験のないヤツがエラそうに言うな!


  経験はないけど、オレはオメーみたいに
  溜め込むようなバカはせんわっ!

ちなみに…

タナベさんは20代でして…

その彼が、30以上も年上のドライバーに、このような暴言を
吐きまくり、箒を振り回している画…

やっぱり、このセンター、おもろいナァ。。。

個性的な人、多過ぎやナァ。。。

などと思いながら気が付いたのですが…

スダさん、いつの間にか居ない…。

どこへ行ったんでしょうねぇ?

  とくかく、サッサと洗え!
  いつまでこんなコトしとる
  つもりや!


  オメーに言われる筋合いはねーわ!
  何がサッサと洗えや!
  オメーが持ち込んだクレートやろ?
  テメーで洗え!
  このバカ!


  クレートの洗浄はドライバーの
  仕事じゃねーだろ!
  ほれ!
  サッサと洗わんか!このボケ!

オカバヤシさんに言われ、カッとなったタナベさんが、再び
箒を振り回そうと腕を上げたその時!

  コラッ!
  バカバヤシ!
  何やっとる!オメーはっ!!

洗浄室いっぱいに響き渡る大音声・・

それは、配送課の課長であるキヤマさんと言う40前後の女性の
声でした。

キヤマさんは、今年4月から、このセンターの配送課課長に
着任しました。

以前、大型トラックのドライバーだったそうです。

女性とは言え、男顔負けの気性らしいです。

そのキヤマさんが、

  オメー、エエ加減にしとけよ!
  みんなに迷惑掛けとるのが
  わからんのか!

ビンビンと響き渡るような声で、オカバヤシさんを叱りつけて
いるのです。

キヤマさんの後にはスダさんが・・

そうです!

スダさんが、オカバヤシさんの上司であるキヤマ課長に、
事情を告げに行っていたのでした。

どうやら、こうしてオカバヤシさんが大量のクレートを持ち込んで
きたのも、キヤマ課長から厳しく注意されたみたいで・・

  オメーが勝手に溜め込んだ
  クレートだろ!
  自分で洗え!

キヤマ課長に叱られても、まだ・・

  しゃーねーがや。。

などと反論しようとするバカバヤシを、

  しゃーねーじゃねーわ!
  何日分のクレートか知らんけど、
  駐車場の隅に山積みしやがって・・
  オメーだけだぞ!
  そんなだらしねーヤツはっ!

一蹴しました。。。

結局、バカバヤシは洗浄室に残り、クレートを洗うのを手伝う
ことで決着しました。


午後6時過ぎ・・

何とか商品の出庫、仕分けも片がつき、僕らは周辺のカゴ車などを
片付けながら、

  それにしても、何でクレートを
  洗わなきゃいけないんですかねぇ?

  オレも前々から疑問に思っていたけど、
  たぶん、食品を入れる通い箱なんで、
  それで洗浄して衛生を保とう…って
  コトじゃない?

  でもさぁ、食品と言ってもパッケージで
  包装された状態のモノばかりでしょ?
  直に触れるわけじゃないから、イチイチ
  洗浄する必要あるのかなぁ?

スダさんも交え、こんな会話を始めたのです。

  これは、ここのセンターに限らず、
  ほかでも同じように洗浄機を
  通しているそうだ。

  な~んかムダじゃないッスか?

  仕方がない。
  もう40年以上も、こうして
  いるらしいンで。。

  なんで、イチイチ洗わんと
  アカンのやろ…?

  わからんなぁ~~。

クレートを大量に持ち込む身勝手なドライバー・バカバヤシを
懲らしめた怪傑・スダ。

しかし、クレートを洗浄することの意味については、謎のまま
なのでした…。
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