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笹やん 苦情処理

僕は、笹やんから先月の在庫一覧表を作成してほしいと頼まれ、
冷凍食品センターの事務所へパソコンを操作していました。

午後1時過ぎ。

たまたま事務所には、パート事務の女性2名と笹やんだけでした。

  笹○さん、
  2番、電話入ってまーす!

40歳ぐらいのパート事務の女性が笹やんに言うと、笹やんは
ギョッとしたような声で、

  え゛っ! オレ!?

そう言って、渋々受話器を取りました。


  ハイ、お世話になってます。
  どーも!
  ハイ、ハイ…、
  えっ!
  はあ…、
  ハイ、そうなんですか…、
  はあ…
  わ、わかりました。
  じゃあ、確認したら折り返し
  お電話させてもらいます。
  ハイ、ハイ、
  どーも、ハイ…

受話器持って、机の前でやたらペコペコ頭下げてる笹やん。。。

電話が終わったのか、受話器をガチャッ!!と不機嫌そうに置くと、
先ほどのパートさんに向かって、

  なんでオレに苦情の電話回すの!?
  他のヤツに回せよ~

とグジグジ言い出しました。

  だって、今、ここに社員は
  笹○さんしかいないじゃない!

さらりとした口調でパートさんに返され、二の句が告げられなく
なった笹やん。。。

  あ──────も──────ッ!
  めんどくせ──なぁ────ッ!!

そう言って頭を掻きながら、ノソノソと事務所を出ていく笹やん。

先ほどの電話は、どこか得意先からのクレームだったようで、
その内容はわかりませんが、笹やんは苦情処理ために庫内へ
行きました。

めんどくせーのはこっちだよ…、こんな在庫一覧なんて、
どーしてオレが作らなきゃならないんだよ…、僕はそう思いつつ、
背中を丸め、黙々とパソコンに向かっていました。

30分ほど経ったでしょうか。笹やんが戻ってきて、電話を掛けて
います。

  あ、どーも…、
  どーもお世話になります。
  えっと、ワタシですね、
  ×××の笹○と申しますけど、
  あの、あのですね、
  カキ…、カキ、カキヌマさんは
  いらっしゃいますでしょうか?
  ・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・
  あ、どーも先ほどは…、
  ハイ、ええ~とですね。
  ハイ、どーも、
  どーもすみません。
  いや、そーゆーわけじゃ…、
  す、すみません。
  ええ、そーゆーわけじゃ…、
  ええ、そーゆーわけじゃないんですが…、
  ハイ、ハイ、それはもー、
  ハイ、
  ちゃんと手配しますので…、
  え?
  いやいや、そーゆーわけじゃ…、
  わかりました!
  ハイ、間違いなくお届けしますので…、
  わかりました!
  ハイ、すみませんです。

頭を掻き掻き、ペコペコしながら電話している笹やんの様子を
見ると、どうやら相手から「返事が遅い」とか「対応が悪い」と
言ったようなクレームがついたみたいで、苦情の二次現象とでも
言うのでしょうか?

やたらアタフタしながら電話している笹やん、受話器を置くと、

  あ──────も──────ッ!
  エラそ─────に!
  チックショ──────ッ!!

顔を真っ赤にして叫びだしました。

そこへ、センターの社員で若くて大人しいタカハシさんが入って
きました。

  タカハシィ~…

笹やんが甘えるような声でタカハシさんを呼びますと、本能的に
何かを感じたのか、タカハシさんは眉をひそめ、やや引き気味に
笹やんの顔を見ました。

  実はさっきサァ~、
  △△の店から苦情の電話が
  あってサァ~、
  発注したチキンナゲットP220が
  1ケース足りねぇって言うんだよ~。
  庫内で担当のヤツに確認したんだけどサァ~、
  昨日、ちゃんと出庫して数量通り
  △△の店のカゴ車に積み込んだって
  言うんだよ~。
  でも、店のカキヌマってヤツは
  4ケースの注文で、3ケースしかないって
  言ってるしナ~…
  とにかく今日中に不足分の1ケース届けろ!って、
  エラそうに怒ってるしサァ~、
  どーしたらイイと思う~?

笹やんが救いを求めるような目線と口調でタカハシさんに迫りますと、
タカハシさん…、

  はぁ…

とだけ言って、スタスタ自分の机の方へ行き、引出しからガムテープを
取出しました。

  ・・・・・・・・・・・・・・

しばらく無言で、その様子を見つめていた笹やんでしたが、あまりの
反応のなさに不安を感じたのか、

  なぁ、タカハシィ~…

再びタカハシさんの名を呼び、

  どーしたらイイと思う~?

と繰り返し尋ねました。

タカハシさんは眉をさらにひそめ、弱々しい口調で、

  とりあえず臨時便を作って、
  その店に商品届けるしかないですね…。

と言って、そそくさと事務所から去っていきました。。。

明らかに笹やんから苦情処理を丸投げされるのを避けているのが
見え見えです。。。

  しょ───がね──な───ッ!
  も──────ッ!!

そう言って笹やん、重い腰を上げ、パート事務のふたりに臨時便の
手配の仕方を確認し、さらにチキンナゲットP220を1ケースを
△△の店へ届けるため、納品書の発行を言いつけました。

アタフタしながらも、何とか臨時便を整え、商品を配送する
手配ができたようで、笹やんが例の店へ、今から配達する旨を
伝えるため、電話をしました。

  あ、どーも…、
  どーもです!
  ワタシ、×××の笹○と申しますけど、
  カキ、カキヌマさん…?
  え…?
  カキヌマさんですか?
  ああ!
  どーも!いろいろどーも!
  すいませんでした。
  今、今、今、出ますんで!
  ハイ、今、今、商品の方、
  お届けに行きますんで!
  ええ、今です!
  今、今、今…、
  ええ、今行きます!
  今…、
  え?
  そーですねー…、
  たぶん…、
  そーですねー…、
  4時前にはお届けできるかと…、
  ハイ、今出ますんで!
  今、今出ますんで!
  ええ、今です!
  ハイ、ええ、ハイ…

何回、今、今って言うんじゃ…、と思い、僕は思わず
両肩を揺すって笑ってしまいました。

それをパートさんたちに見られ、彼女たちも一緒に
クスクスと笑い出しました。

それには気づかず笹やんは、

  ハイ、すみませんでした!
  今出ます!
  今出ますんで!
  ハイ、ハイ、どーも…
  ハイ、すみません!

電話を続けています。。。


  はぁ─────────っ!
  やれやれ…。

受話器を戻し、何とか苦情処理を済ませた笹やんが、太くて
長い息をもらしました。

でも…、

このチキンナゲットP220 1ケース…、

本当に昨日、数量通り出庫されていたら、また在庫が狂って
しまうんじゃ…。

僕はイヤ~な予感がしましたけど、そのまま黙って在庫一覧表を
作成し、笹やんへ渡し、そそくさと事務所を去っていきました。。。
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