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笹やん 肩すかし

笹やんに頼まれて、午後から事務所のパソコンに向かって、
商品コードの登録や削除をすることになりました。

本来ならば笹やんがやるべき仕事ですけど、あいにく笹やんは
パソコンを触るどころか見るのもイヤだと言うわけで…

  おう、わりぃけど、昼からは
  仕分け作業しなくていいから…

そう言って、バイト先の冷凍食品センターの事務所へ連れて行き、
メチャクチャ分厚い台帳をドン!と、机に置いて、

  これ見ながら、来月からの新規商品を
  登録して、ここにホレ…、
  「*」が付いた商品があるだろ。
  これらを削除していってくれれば
  イイから。

そう言って、そそくさと事務所を出て行ってしまいました。

  「イイから」じゃなくて!
  メッチャあるじゃん、これっ!

まさに星の数ほどの商品…

作業自体は単調ですが、それだけに…

  かったりぃーーっ!!

ってコトです。。。


カチ、カチ… カチッ… カチッ…

それでも黙々と僕は、パソコンのキーを叩き、商品コードの
登録と削除作業を進めていました。

すると・・

  さ~て、やるか…。

センター長がそう言いながら、何枚もの履歴書を手にして、
こちらの方へやってきました。

聞けば、明日から「新規バイト採用面接」が始まる予定らしい
です。

夏休みでもあり、特に8月中旬の盆休みを利用した帰省客などで
辺りの外食関係は繁忙期になります。

それに伴って、ここのセンターも出庫、仕分けが忙しくなり、
バイトを増員しなければならないわけです。

センター長は、空いている大きなデスクに書類を置いて、一枚ずつ
目を通して行きました。

長期希望者と来月の7日から15日までの短期間バイトを希望して
いる人を分け、さらに希望勤務時間、通勤手段などの条件を
チェックしていくのですが、

  あぁーー!
  なかなか条件に合うのが
  おらんなぁー。。。

などと言いながら、センター長は大きく伸びをしました。

と・・

そこへ笹やんが現われ、

  お、やってますナァ。。

そんなことを言いながら、センター長の横に腰掛け、何やら勝手に
書類をまとめ出しました。

  おい、何やっとる!?

訝しげな顔つきでセンター長が、笹やんに言いました。

しかし、笹やんは全く応えず、ニコニコと実に楽しそうに書類を
見ては、右に左に仕分けていきます。

  おい、何やっとるンやて!?


  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・


  おいっ!


  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・


  何をやっとるっつーの!
  オメーは!


  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・

ついにセンター長は椅子から立ち上がり、笹やんの手から書類を
取りあげました。

  あっ!
  ちょっとやめてくださいよ!
  何すンですか!

笹やんはそう言って、センター長の方へ顔を向けました。

  「何すンですか」じゃねーわ!
  それを言いたいのはオレの方やわ!
  勝手に何やっとるンや!

センター長が吠えると、笹やんは落ち着いた口調で、

  見てください。
  こうやって長期と短期を分けて、
  しかも、1日8時間以上、働けるヤツを
  ピックアップしたんです。
  まだ途中ですから、そっちの履歴書も
  見せてくださいヨ。

と言いました。

  誰がそんなこと頼んだ?
  商品登録もバイトにやらせて…
  オメーというヤツは、ったく!

そんなセンター長の言葉を無視して、

  ほら、これなんかどうッスか?
  何となく「宮沢りえ」に似てませんか?

そう言って笹やんは、その履歴書の写真を指差しました。

  ほぉ、47歳か…
  うん!こいつは採用だ!


  何を勝手なこと言っとるンやて!
  オメーは!


  お、こっちのを見てください。
  こっちは「藤原紀香」似じゃないッスか!
  ねえ、ほら…、目もとや唇の感じが…


  だから勝手に見るなっつーの!
  オメーは!


  こっちは45歳か…
  よし、こっちも採用だ!


  だからぁ!
  勝手にオメーは!


  お、これもイイんじゃないですか?
  今回は粒揃いじゃないッスか!
  ねえ、センター長。


  「ねえ」じゃねーわっ!
  早よ作業場へ戻れ!

センター長は、思いっきりイラつきながら、吐き捨てるように
笹やんに言いつけて、再び書類に目を通し出しました。

  あ・・!
  その男はダメです!

また笹やんが横から、センター長に声を掛けました。

  その男、目つきが悪い!
  こういう目をしてる野郎は
  文句ばかり言って、全然手を
  動かさない。。。


  ・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・

そう言った笹やんの顔を、黙って見つめるセンター長。

やがて、こう言いました。

  そうか…。
  そう言うオメーも、こういう目ぇしてンじゃねーか!
  なあ、おいっ?
  コレと同じ目つきじゃねーかよ!
  文句ばっか言いやがって、全く手ぇ動かさねーよな、
  オメーも!

  あっはっはっはっは!

聞いていた僕は、遠慮なく大声で笑っちゃいました☆

近くで事務処理をしていたパート女子たちもコロコロ笑って
います。。。

苦笑いしている笹やんを無視し、センター長は書類チェックに
専念しようとしているようですが…

  わっはっは!
  これ見てくださいよ!

いきなり笹やんが爆笑して、センター長に言いました。

  その写真、ほら…
  何でしたっけ?
  ほら…、そうそう!
  おかずクラブの、あれ…
  「ゆいP」って言いましたっけ?
  これなんて「ゆいP」そっくりじゃないですか!
  わっはっはっは!

心から楽しそうに笑う笹やんにつられて、センター長も、その
写真に目をやり、

  まぁ、そう言われるとナ…。
  よく似てるよな…。

思わず笑い出しました。。。

  似てるなんてモンじゃないッスよ!
  この髪型と言い、顔の各パーツが
  完全に「ゆいP」ッスよ!
  わっはっはっは!

笹やんは、写真を指差し、まさに腹を抱えて笑っているものですから、
僕も近寄って、写真を拝見してみると…

  あっはっは!
  ホントですね!
  ここまでそっくりとは・・!
  こりゃもう、どう見ても
  「ゆいP」じゃないですか!

本当によく似ているのでした。。。

僕が大きな声で、そんなことを言ったので、事務のパート女子や
他の社員も、ぞろぞろ集まってきて、

  おう、似てる、似てる!

  あら、ホントね!

全員が認めるほどです。。。

  でも、こういうキャラも必要ですよ、
  センター長。
  歳は35か…
  イイんじゃないッスか。
  採ってやりましょうよ。

笑顔で笹やんがそう言うと、

  何が「採ってやりましょう」だ!
  いつまでここに居る気や!
  オメーは!

我に返ったようにセンター長が、笹やんに怒鳴りました。

と、そこへ笹やんチームの熟年女子バイト・キノシタさんが
事務所にやってきて、

  おい、笹やん!
  いつまで油売ってるつもりや!
  早よ、ラックから商品出してきて!

呑気に和んでいる笹やんを見つけると、大きな声をあげました。

  みんな待ってンだよ!
  早く出してくれないと
  間に合わなくなるでしょ!

目を吊り上げているキノシタさんに、

  わあった、わあった!
  出しゃイイんだろ!
  出しゃ・・!

キノシタさんを制するように片手を上げ、笹やんは、のそのそと
事務所を出て行きました。


カチ、カチ… カチッ… カチッ…

しばらく静寂が続き、僕はパソコンに向かって、商品登録や削除の
作業に集中しました。

センター長も、熱心に書類に目を通したり、まとめたり・・

すると…

20分経ったくらいで、笹やんが、また事務所に戻ってきて、

  やあ、どうです?
  センター長。
  はかどってますか?

妙に明るい表情で、ハキハキと声を掛けました。

それに対し、さも鬱陶しげに笹やんを見つめるセンター長。。。

  また来たンかい、オメーは!
  「はかどってますか?」ってのは、
  オレがオメーに言いたい台詞やわ!

そんなセンター長の言葉を気にすることなく、

  さあ、選考を続けましょう!
  そっちの書類、まだ手つかずでしょ?
  オレに見せてください。

テキパキと椅子に腰掛け、キビキビと書類を手に取ろうとする
笹やんの手を、

ペシッ!

・・と、払いのけるセンター長。。。

  イテっ!
  何すンですか!


  何するも何も!
  オメーは作業場で仕事しとれよ!


  いやいや、そう言わず…
  もう少し見せてくださいよ。。


  そう言うも、こう言うもあるかッ!
  関係ねーだろ、オメーは!


  関係なくないじゃないッスか!

笹やんはムキになって、机の上にある書類を手に取ろうとしますが、
センター長もムキになって、取らせまいと書類を遠ざけます。

笹やんは、バイト採用に関しては、普段とはまるで意気込みが違う
のです。

目つきが変わる!

目に熱が入る!

こういう時だけです…。

しかし、実際のところ、笹やんの担当している回転寿司やフードコート
の納品店舗数は、先月から増えており、それに伴って物量も増加して
いるわけで・・

現状のバイト数ではイッパイ一杯・・

なので、笹やんとしても優秀で、好みに合った女子バイトを一人でも
多く採りたいと・・

  誰がオメーのところへ
  配属させると言った!

書類を手早くまとめながら、センター長が言い放ちました。

  へ…?

いきなりそんなコトを言われ、目をテンにする笹やん。

  何言ってンですか!
  センター長!
  寿司屋が6店舗増えたし、H亭なんか
  店舗だけじゃなく、取り扱いメニューが
  増えて、仕分けが間に合わないほど
  なんですよ!

またまたムキになって、抗議する笹やん。

  だから、オメーのところは今月
  2人増員したやろ!


  そんなんじゃ足りませんよ!


  足りるやろ!
  ヨコイだって戻ってきたし!
  オメーのところは手慣れたバイトが
  揃っとるやろ!
  今回の採用は、新規の定食屋を担当する
  ナカガワと、ホテルへの食材が追加される
  イトーのところへ補充する分や!
  オメーのところは補充なしッ!


  そんな…
  せっかく書類のまとめとか
  手伝ったのに…


  おう、ありがとナ…
  助かったわ。。


  そんな…
  せめて「りえ」と「紀香」を…


  うるせー!
  早よ仕事に戻れ!


  そんな…

そんなわけで今回は笹やん、肩すかしを食らったようで…。
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