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笹やん 般若湯

今月から、バイトとして冷凍食品センターで働くことになった
ナベタガワさん。

彼は、シルバー人材センターから、ここのバイトを紹介された
そうで、年齢は66歳。

そう、笹やんと同じです。

それにしても、ナベタガワって、珍しい苗字じゃないですか?

漢字で書くと「鍋田川」

本人に聞いてみると、生まれは滋賀県だそうです。

そんなナベタガワさん…

早くも、ヘンな噂が…

  ナベタガワさんは、どうも仕事の合間ごとに
  お酒を飲んでいるんじゃなかろうか…。

って噂でして。。

笹やんチームのバイトたちの話では、

  息が酒臭い!


  特に午後からは動きが鈍ってる!


  昨日なんか、4時頃だったかなぁ…
  ろれつがヘンで何言ってンだか…。


  しかも足、フラついてたし…。

ってコトらしいです。。

どうもナベタガワさんは、作業の区切りごとに更衣室へ行くようで、
そこで飲んでいるンじゃないか?

  自分のロッカー開けて、500mlサイズの
  青い水筒を取り出してるよね。
  アレの中身は酒だと思うよ。


  きっとそうだよ!


  ちょくちょく水筒に直接、口をつけて、
  ひと口、ふた口飲んでる。


  それで、プハァ~なんてやってるモン!

昼の休憩時、僕らバイトたちは、そんな話で盛り上がってました。

  間違いなく酒ッスよ!

ここで若手バイトのリーダー格・スダさんが混じってきて、
そう断言したのです。

  オレ、見たっス!
  昨日の夜、帰り際にナベタガワさん、
  ロッカーから、何だかゴソゴソ取り出して…

僕らは、目をキラキラさせつつ、スダさんの次の言葉に耳を澄ます
のでした。

  オレ、何やってンだろ?って
  思いつつ、後ろから見てると…

うん、うん!

  何やら、タオルでグルグル巻いた物を
  取り出してたんスけど…

うん、うん!

  グルグル巻いて隠してるつもりなのか
  知らないッスけど…

うん、うん!

  アレ、白鶴○(まる)ッスね。

ほぉー!

  赤い色の紙パックだった!
  間違いなく白鶴○ッスね。。

すると、僕らの背後から、

  白鶴かぁ~・・
  白鶴と言えば「灘の生一本」
  アレはいい酒だ。

そんな声が聞こえ、振り向いてみると、我らが笹やんが、
いつの間にか立っているではありませんか。

  そうか、白鶴かぁ~、
  あの野郎、いい酒飲んでいやがるナ。

含み笑いをしつつ、笹やんが話の中へ入ってきました。

  でも、○ッスよ。。


  ○だろうと四角だろうと
  白鶴は白鶴だ。
  オレも昔は飲んでた。

スダさんが口を尖らせて言うのに対し、笹やんは、右手で
グイ飲みでも持つような仕草を見せながら、ニヤリと笑って
言うのでした。

すると、熟年女子バイトのリーダー格・キノシタさんが、

  そんなコトより、どーするの?
  笹やん。
  そんな酒飲みながら作業しているようじゃ、
  ナベタガワさん、そのうち大きなミスを
  しかねないヨ!

笹やんに忠言します。

  まぁ、見ていてあまりに酷いようだったら、
  ちょっと考えんとアカンなぁ…。

少々あいまいな言い方をする笹やん。

この場は、それでおしまいでしたが…

午後からの作業時に、まさしくキノシタさんが言った通り、
ナベタガワさんがミスを犯してしまいました。。。

単純な仕分けミスです。

幸い、作業中に見つけることが出来たので大事に至りません
でしたが。。。

この機会に…と言うわけで、笹やん、ナベタガワさんに注意を
しました。

  おい、初めのうちはミスも
  仕方がないけどよ…
  おめー、どうも酒を飲みながら
  やっているようだな?

するとナベタガワさんは、いたずらを見つけられた子どものような
目つきになって、

  は・・?

惚けて見せます。。。

  何が「は・・?」だ。
  もうみんな知ってるんだよ。
  白鶴なんぞ飲みやがって。。

笹やんに銘柄まで言われ、さすがに惚け通すことは無理と思った
ようで、

  まあまあ、笹やん…

今度は少し甘えたような声で言うナベタガワさん。

彼は、年齢が同じなので親近感があるのか、笹やんに対して
妙に馴れ馴れしい態度で接するようで。。

  まあまあ…じゃなくて、酒を
  飲みたきゃ仕事を終わらせて
  からにしろ。
  大体、仕事中に酒を飲むヤツなんて、
  初めてだゾ!


  そんな、笹やん…
  あからさまに酒、酒って…


  酒は酒だろ!
  飲むなとは言わん。
  仕事が終われば、好きなだけ
  飲めばいい。


  そうあからさまに…
  酒と言わず、ここはひとつ…

ナベタガワさんは、掌を上げて、笹やんをなだめるような仕草を
しながら、

  酒とは言わず、般若湯と
  言ってくれよ。。。

と言いました。

  なにぃ?
  般若湯だとぉ~?

これには笹やん、不意打ちでも食ったような顔で言い返しました。

般若湯…って、日本酒の隠語…ですよね?

つまりナベタガワさんは、こうして周りにバイトたちがいる前で、
酒を飲んでいると言うことが大々的に知られたくないから、せめて
隠語で話をつなごうと…

って、何を今さら。。

それとも、既に酔っているのかナ・・?

  何が「般若湯」だ!
  どーでもエエわ、そんなこと!
  とにかく酒を飲みながら作業するな!


  でもよぉ、笹やん…
  ここで面接した時、飲んじゃいかんとは
  聞かされとらんモン。。


  そんなコト、常識やろ!
  飲みながら仕事するヤツなんか
  おるか!?


  でもよぉ…
  別にオレ、車を運転して帰るわけじゃなし、
  いつも歩いて帰るモン。。


  そういうコトじゃねーわ!

ま…、何だか、まとまりのない注意の仕方で終わっちゃいましたが…

夜、7時を過ぎた頃…

既にナベタガワさんは帰って、僕も、作業を終えて帰ろうとして
いたら…

  おい、笹○!

センター長が、笹やんを呼び止めていました。

  おい、ナベタガワの件だけどなぁ…

センター長も、彼が作業の合間に酒を飲んでいることを知っている
のでした。

  そのうち大きなミスをするとヤバいから、
  おまえ、ちゃんと気を付けて見てろヨ。。。

キノシタさんと同じようなことを笹やんに言うのでした。

すると笹やん、やや反抗的な口調で、

  って言うか、何でオレのところへ
  配属したんスか?

と、センター長に言いました。

少し間をあけて、

  まぁ、それは…
  おまえと同じ歳で、気が合う
  だろうと思ってナ。。

そんな適当なコトを言うセンター長。。

  なんスか、それ?
  あんなヤツと気なんか合うわけ
  ないっしょ!


  まぁ、そう言うな。。
  よろしく頼むゾ。


  何が「よろしく」なんスか!?
  何でオレに押しつけるんスか!?


  な、頼むゾ。。

そう言って、そそくさと去っていくセンター長。。。

笹やんは、その場で、しばらく黙って立っていましたが、
やがて、左手で顎の不精髭を撫でながら、

  アイツには辞めてもらわんと
  いかんナァ~

ポツリとそう言ったのを、僕は聞き洩らしませんでした…。
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