________________________________________________________________________

笹やん 救出劇

  お~い、笹やん。
  わりぃけど、ちょっと
  助けてくれぃ。

僕らが商品を仕分けているところへ、社員のフジエさんが
やってきて、笹やんに声を掛けました。

フジエさんは、バイト先の冷凍食品センターの社員で、年齢は
50代後半…、56、57歳ぐらいだと思います。

このセンターの社員では笹やんの次に年長であり、歳が近いせいか
最も笹やんと親しくしているようです。

笹やんはフォークリフトに乗ったまま、

  どうしたんや?

と、大きな声でフジエさんに尋ねながらも、リフトでパレットを
すくい上げています。

  それが、ちょっとヤバいことに
  なってよぉ…
  オレのリフト、故障したみたいや。

フジエさんは常に眉毛が八の字になっており、日頃から
何だか困ったような顔をしていますが、今、まさしく
困っているという感じで笹やんを見ながら、そう言いました。

  故障…?
  それならオレが見ても
  直せんかも知れんぞ。
  業者に連絡した方がいいだろ。

笹やんがリフトを操作しながら大声で言うと、フジエさんは
さらに眉毛を八の字にして、

  いや、リフトを直すのはイイとして、
  ヤバいのは、オレのリフトでパレットを
  持ち上げて、そのパレットの上にナカモリが
  乗ったままなんだわ…。

それを聞いて笹やんは、乗っていたリフトを停止させ、
ちょっと不思議そうな顔つきでフジエさんを見つめました。

話をまとめますと、フジエさんがバイトのナカモリさんを
つれて、ある商品の在庫数を確認するため、冷凍庫に
入りました。

その商品は収納ラックの最上段に保管されているため、
フジエさんがフォークリフトでパレットをすくい上げ、
そのパレットにナカモリさんが乗り、それをリフトで上昇させ、
ナカモリさんが在庫数を確認するという段取だったのです。

ところが…、

ナカモリさんを乗せたパレットをラック最上段あたりまで
持ち上げたのはよかったのですが、そこでリフトが故障して
しまったらしく、レバーを押しても引いても動かなくなって
しまい、ナカモリさんは今、約5メートル上のパレットに
乗ったまま冷凍庫に置き去りにされているわけです。

  いやぁ、よりによって
  こんな時に故障するとは
  思わなかったんで…。
  まいったよ、笹やん。
  このままじゃ、ナカモリ、
  凍死してまうわ。
  なぁ、笹やん。
  ちょっと助けてくれ。

フジエさんが言うと、笹やんはニヤニヤと、なぜかとても
嬉しそうな顔つきになって、

  ナカモリか…、アイツは
  1時間ぐらい放っといても
  死なんわ。

などと言い出す始末。。。

  いやいや、笹やん。
  冗談はやめて、ホント助けてくれ。
  マジで死んだらエラいことになってまう。
  なぁ、笹やん。
  ちょっとリフトでパレットすくって
  冷凍庫まで来てくれ。

フジエさんが心配そうに言います。

笹やんはニヤニヤしたまま、パレットをすくい上げて冷凍庫へ
向かって行きました。

笹やんのリフトでパレットを上げて、そこにナカモリさんが
移って、それで助けようという作戦です。

僕らは仕分けの手を休め、野次馬になって、ぞろぞろと冷凍庫の
中へ入っていきました。

これから始まる笹やんの救出劇を見物しようというわけです。


果たして冷凍庫内には、故障したフジエさんのフォークリフトが
実に静寂な雰囲気で停止していました。

高さ5メートルほどの位置でパレットを上昇させた状態のまま
停止しており、そのパレットの上にはナカモリさんが…、

極寒に耐え切れなくなったのか、四つん這いになって、
ガックリと首を垂れている様子が見えます。

  おーい!
  ナカモリ!大丈夫か?

笹やんが大声で呼び掛けました。

6、7秒後にナカモリさんが反応しました。

  だ…、大丈夫じゃ…、
  ないです…。

たぶん、そう言ったように思いました。

  何ぃ?
  聞こえん!
  何て言った?

笹やんが大声で聞き返しました。

すると、今度はやや大きな声で、

  あんまり…、
  大丈夫じゃ…、ないです…。

と返事が返ってきました。

今度は笹やんにも聞き取れたらしく、

  そうか…。
  今、助けてやるからな。
  気合入れろ!
  な!
  おい!
  聞こえているンか?
  なぁ、ナカモリよ!

とか言ってますが、それよりも早くパレット上げて
助けてあげた方がイイんじゃ…

何が面白いのか相変わらずニヤニヤしながら笹やんは
ようやくパレットを上昇させました。

ナカモリさんが乗っているパレットの側面にぴったりと
パレットをつけ、

  よぅし!
  どうだ?ナカモリ。
  動けるか?
  早くこのパレットに移れ!

そう叫びました。

もぞり…、もぞり…、とナカモリさんが動き出しました。

  アイツ、高いところに長く居ると
  気分悪くなるって言っとたわ。
  寒さより、そっちの方で
  ダメージ受けとるんだろうな…。

笹やんの横からフジエさんが、ボソリとした口調で
言いました。

  おいおい、そんなヤツ
  パレットに乗せるなよ!

笹やんが笑いながら言うと、フジエさんもニヤ~っと
笑いながら、

  まさか、こんなことになるとは
  思わなかったもんでよぉ…。
  商品を数えるだけなんで、すぐに
  終わると思って、手近なところに居た
  ナカモリにやらせたんだわ。

そんなことを言っていました。

  とは言ってもなぁ、アイツ、
  あれで芝居っ気があるからなぁ…。
  高いところ苦手とか言って、
  在庫確認するのが嫌なだけじゃないの?


  まぁ、アイツ、あまり仕事しねぇ
  ヤツだからな…。
  確か3日前も腹の調子がよくないからって、
  重い荷物、積み込むの勘弁してくれなんて
  オレに言ってきてよ。
  その割に休憩の時、スーパーカップの
  ラーメンとアンパン、ガツガツ食っててよぉ…。
  何だ?オマエ、腹の調子よくないって言う割に
  食欲あるじゃねえか? って言ってやったら、
  アイツ、ちょっとバツの悪そうな顔して
  「少し調子がよくなってきたみたいで…」とか
  言って笑ってやがンの。


  ふん、そういうヤツだよ。
  アイツは…。

笹やんとフジエさんは、そんな会話をしていました。

パレット上のナカモリさんのことは、すっかり忘れられて
いるかのようです。。。


  降ろしてください…

そのうち、上の方からナカモリさんの弱々しい声が聞こえて
きました。

笹やんが、ゆっくり顔を上に向けて、自分のリフトで持ち上げた
パレットにナカモリさんが乗ったことを確認しているようです。

  早く降ろしてください!

今度のナカモリさんの声には、少し怒りがこもっているように
聞こえました。。。

笹やんにも、その怒りの空気が感じられたのか、ややムッと
した口調になって、ナカモリさんに言いました。

  オマエ、ちゃんと商品の在庫数、
  確認したか?

するとナカモリさんが、

  しました。
  97ケースです!
  降ろしてください!

はっきりとした口調で答えると、

  ホントかぁ~?
  ちゃんと確認したかぁ?

笹やんが意地悪そうな声で言いました。

  ちゃんと数えました!
  97ケースです!
  降ろしてください!

明らかに怒ってます…。
ナカモリさん、完全に怒りに満ちた声になってます。

それでも、笹やんはワザとゆっくりした口調で、

  ついでにサァ…、
  向かい側のラックの商品も
  数えてくれない?

そう言うと、

  まず降ろしてください!

ナカモリさんは、パレットの上に立ち上がり、両手でリフトの
一部をつかみ、身体を支えているようです。

そして怒りの眼差しで笹やんを睨んでいるのが下から見ても
はっきりわかりました。

それでも笹やんはニヤニヤしながら、

  そのまま乗っとれ!
  少し移動させるから、ちゃんと
  つかまってろよ!
  反対側のラックにある商品の数を
  確認してくれ。

そう言うと、

  ムリです!
  降りたいです!
  一旦、降ろしてください!

ナカモリさん、振り絞るような声で言いました。
必死さが伝わります。。。

  おい、笹やん。
  まぁ、この辺で降ろしてやってくれぃ。
  マジでヤバいかも知れん…

フジエさんが笹やんに言いました。

そのフジエさんも、笑いで形相を崩しています。。。


ス──────ッ…

ようやく笹やんの手が昇降レバーに触れ、ナカモリさんを乗せた
パレットが下降してきました。

ナカモリさんは涙目で、鼻水を垂らしながら降りてきました。

この場合、ナカモリさんは、助けてくれた笹やんにお礼を
言うべきかも知れませんが、散々いじられたせいもあり、
あるいはホントに気分が悪かったのか、無言でうつむき気味に
トボトボと歩いて冷凍庫から出ていきました。

なんとも言えない寂しい雰囲気と、ちょっとした緊迫感が
一瞬だけ漂いました。

が…、

  しかし、コレどーする?
  このままこんな所に置きっ放しじゃ、
  商品を取り出すこともできんゾ!


  故障すりゃ、ただの鉄の塊だな…。


  とりあえず業者に電話してみろ。


  今日は日曜日だから、電話しても
  出ないだろうな。


  じゃ、今日から明日の朝まで
  こんな状態のままか?


  しゃーねえわナ…。

笹やんとフジエさんは、故障して放置状態のフォークリフトを
見つめながら、そんな会話をしています。

ナカモリさんの様子を心配するでもなく、リフトの話…?

ナカモリさんって…
にほんブログ村 オヤジ日記ブログへ
にほんブログ村




タグ:笹やん
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました