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笹やん 大反乱

カイゼン活動の成果が、なかなか上がらない冷凍食品の
物流センター。

カイゼン活動とは、センター内の作業ミスをなくすために
各種作業の手順を見直し、正しい手順を確立し、それを
実行することで効率的、且つ正確な作業が誰でも出来る
ようにする…、

そんな目的の活動だったような気がしますが、今では
もう…、誰も気を入れて活動しているとは思えないほどに
なりました。

僕は、このセンターで日曜日だけバイトをしていますが、
この活動について関心を持っているバイトは一人も
いないと見ていますし、ここの社員も、初めの頃は
いろいろ取り組んでいたみたいでしたが、日に日に、
その姿勢は崩れていき、今は上辺だけで、仕方なくやって
いると言う態度がはっきりと見て取れます。

この活動の推進リーダーである社員のイトーさんも、
ここ最近はまったくやる気をなくしているようで、
ここのセンター長に叱咤され、イヤイヤ作業内容を
チェックしたり、資料を作成したりしているらしいです。

で…、そんなイトーさんが、ここの最も年長であり、
最も適当な社員である笹やんのところへ来て、

  笹○さん!
  昨日もお願いした通り、改定した手順書に
  基づいて作業しているかどうか、今日、
  イシダさんがチェックに来ますから
  よろしくお願いしますね!

と言いました。

笹やんは、商品をパレットに積みながら、

  お…?
  おお!わかった!
  何時に来るんだっけ?

何だかイイ加減な調子で言ってます。

  1時からセンター長と僕と打ち合わせして、
  その後…、たぶん2時半ぐらいに庫内を
  見に来て、作業手順をチェックすると
  思います。

イトーさんがそう言うと、

  ふぅん…、2時半な…。
  よし、わかった!

と返事する笹やん。その返事があまりにも軽すぎるので
不安に感じたのか、

  どっかへ隠れたりしないでくださいね…。
  イシダさん、笹○さんをチェックするって
  指名してましたから…。

念を押すように笹やんに言いました。

イシダさんと言うのは、カイゼン活動を指導、支援する
コンサルの人で、とても気が強い46、47歳ぐらいの
ド派手なおばさんです。

ここへ来る時は、いつも濃厚な化粧にドギツイ色彩の服装で
現れ、さらに強烈な香水の匂いをプンプンさせています。

笹やんにとって、イシダさんは天敵のようなもので、彼女の
ことを陰で“ニオイ”と呼んでます。


昼休みの時、バイト仲間から聞いた話によりますと、
年末年始期間に笹やんが管理、担当している商品や
納品先で、多数のミスが起こり、ロスも激増したため、
作業手順書を改めて作成することになったそうで、
その手順書にしたがって作業するように、これからしばらく、
コンサルのイシダさんも加わって、指導、チェックを
おこなっていくことになったそうで…、

そこで、今日は張本人、笹やんをチェックしようと言うことに
なったわけです。

他の社員は、笹やんのせいで手順書を読まされたり、チェック
されるハメになった…、などと不平をもらす人もいるそうです。。。

しかし、そんなコトに全くお構いなく、昼過ぎからも笹やんは
ハツラツとした表情でフォークリフトを操り、センター内を
行き来しています。

やがて、2時半近くになった頃、そろそろ笹やんは姿を隠すか、
何かするだろうと思って見ていると、特に何をするでもなく、
普通にリフトで商品を出庫しています。

2時40分…、

イシダさんがこちらに向かってきます。後ろにセンター長と
イトーさんが、まるで手下のように控えて歩いて来ます。

その様子を、ニヤ~っと人懐っこい笑顔を浮かべながら見て
いる笹やん。

どうやら今日は、逃げも隠れもせず、真っ向から対決しようと
いうつもりらしいです。

人懐っこい笑顔も、見方によっては不敵な笑いとも取れます!


  じゃ、早速だけど…、
  コレ、一通り読んでくれた?

笹やんの前に立って、イシダさんは作業手順書と思われるA4版の
冊子を見せながら、そう尋ねました。

最近では、イシダさんは笹やんに対してタメ口になっており、
以前は“笹○さん”と呼んでましたが、“笹やん”と言ってます。

  あ…?
  あぁ、目は通しましたよ

チラッとセンター長とイトーさんの方に目をやり、そう答える
笹やん。

  そう…。
  じゃ、今日は笹やんが、この手順書通りに
  作業が出来るかをチェックします!
  それで、手順書の内容を身体で覚えたら、
  次はバイトさんたちに、笹やんから
  この手順書に基づいて作業の指導をしてね!
  いい?

すっかり「上から目線」で笹やんに説明するイシダさん。

  はい!
  じゃ、笹やんは今、商品を出庫してるのね。
  で…?
  商品が積んであるパレットをここへ降ろしました!
  はい!
  降ろしてどうするの?

畳みかけるような口調でイシダさんに言われ、笹やんは無言で
ゆっくり…、って言うか、ぎこちなさそうな動きでパレットの
商品を1ケース持ち上げ、1台のカゴ車に積みました。

それを見て、イシダさんが大声で、

  違うっ!
  何してンの!?

と叫びました。

それを聞いて、笹やんよりも、近くで見ていたイトーさんの方が
ビクッ!として背筋を伸ばしています。

  え?何って…、
  納品先ごとのカゴ車に
  積み分けてるんですが…

そう答えながら、なおも笹やんは別のカゴ車に商品を1ケース、
積んでいきます。

  だから違うって!笹やん!
  ちゃんと手順書読んだ?
  納品先ごとに仕分する前に、
  パレットの商品が間違っていないか、
  それと全体の数量は合ってるか、
  それ確認することになってるでしょ!

そんなイシダさんの声が、キンキンと庫内に響き渡りました。

  は…?
  確認しましたよ。
  商品はフライドポテトストレートカット1㎏で、
  数量は23ケースでしょ。

笹やんが平然とした様子で答えると、イシダさんは、やや表情を
キツくして言いました。

  確認したなら、ちゃんと出庫表の商品欄と
  数量欄にボールペンでチェックして!
  丸で囲むって手順書に書いてあるでしょ!

それを聞いて、改めて出庫表を見る笹やん。
もぞもぞと胸ポケットからペンを取り出して、表にチェックを
入れました。

パレットの商品をカゴ車に積み分け、空のパレットをリフトで
持ち去ろうとすると、

  ちょっと待った!
  最後にやるコトあるでしょ?

イシダさんの声がキンキン響きました。

へ…?って感じで笹やんがイシダさんの顔を見ていると、

  仕分が終わったら、間違いなく商品を
  全数量、積み分けたという意味で
  その出庫表に仕分した人のサインを
  記入するって手順書に書いてあるけど、
  ちゃんと読んだ?
  はい! サインしてっ!

イシダさんはビシビシと笹やんを叱り飛ばし、命令口調で
言い放ちました。

さらに、

  いい?笹やん。
  まず、あなたがこの手順書の中身を
  しっかり頭に入れて、作業してくれないと
  バイトさんたちに指導できないでしょ!
  今やったこと以外でも、手順が改定されて
  いるところがあるから、必ず確認して
  実行してね!
  わかった?

そう言い付けてきました。

はいはい…、って感じで頷いている笹やんの横から、

  そんな、作業中にイチイチ用紙に
  チェックしたり、サインなんて
  してられないよ!

そんな声が聞こえてきました。

バイトのオーヤマさんという60近いおばさんで、イシダさんとは
タイプが違いますが、このおばさんも気が強いことで有名です。

オーヤマさんは、このセンター設立から現在までバイトしている
ベテランで、基本的に日曜日は休みらしいのですが、シフトの
都合か、月に1度ほど日曜出勤するようで、今日、たまたま
笹やんのグループで作業していました。

僕も、オーヤマさんとは、これまで何度か一緒に作業したことが
あり、アレコレうるさく口出ししますが、面倒見も良くて、
僕だけでなく、バイトのみんなから慕われているおばさんです。

  だいだい、こんな低温庫の中で
  長い時間、作業する人も多いし、
  指がかじかんでるって言うのに
  ボールペンなんか出して、
  もの書くことなんか出来ないよ!

オーヤマさんが、顔をしかめてイシダさんに言い寄ってきます。

この予期せぬ反撃にイシダさんはちょっと戸惑ったようで、
一瞬、たじろいだ様子でしたが、すぐ立ち直り、

  これは出庫ミス、仕分ミスを
  なくすために必要な確認作業ですから!
  作業する人は理解してもらって、
  実行してもらわないと…

と言い返しました。

  イチイチ、ペンで書かなくても
  確認できるでしょ?
  わかんない!
  ゼンッゼンわかんない!
  そんなペン出してチェックすること自体、
  ムダな作業じゃないの?

今度はオーヤマさんの声がキンキンと庫内に響いています。

  出庫表にチェックを入れることで、
  第三者が見ても、ちゃんと確認して
  作業してるってことがわかるでしょ?

イシダさんが負けずに言い返します。

  それ、おかしくない!?
  第三者って何よ?
  確認しなきゃいけないのは
  自分のためでしょ?
  他人に見せるために確認してるの?
  そのためにペンで丸書いたり、
  サインするの?
  わかんないっ!
  ホンットにわかんない!


  もしミスが起こった時、第三者が確かめて、
  ちゃんと出庫表にチェックされていたら、
  作業上で間違いはなかったと思える材料に
  なるでしょ?


  ならないよ!そんなの!
  イイ加減に丸書いてたら意味ないでしょ!
  言ってるコトおかしくない?


  でも、これは決まったことですから!
  手順書にしたがってください!


  何?手順書、手順書って!
  さっきから…!
  それって、ホントにミスなくすための
  手順書なの?
  効率悪くするだけじゃない!
  ゼンゼン意味ないと思うけど!


  手順書は、ここのセンターの
  社員の方々が最終的に作っていますので、
  おかしいと思ったことは社員の方に
  言ってください!

イシダさん、さずがに持ち堪えることが難しくなったのか、
社員へ鉾先を向けさせようとしました。

でも、ここで別のバイト…、学生バイトのホンダ君が一歩前に
出て、イシダさんに言いました。

  オレもおかしいと思います。
  出庫表にチェックを記入するって、
  マジ、効率悪いだけだと思いますし、
  ミスなくすためにつながらないと
  思うんだけど…

これが合図にでもなったかのように、周りにいた若手バイトの
5、6人が、一斉に、そうだ!そうだ!と言うように頷きはじめ
ました。

う~ん…、とか言いながらイシダさんは、この反乱に明らかに
困惑したようで、後ろにいるセンター長、イトーさんを振り返り
ますが…、

その時、なぜかセンター長もイトーさんも天井を見上げてました。。。

完全に、自分たちは関係ありませんヨ…、僕らに聞かないでネ…って
言っているような態度が見え見えです。

そして笹やんは…、

とても涼しい顔をしています。

高原で爽やかな風を受けているような、そんな感じの表情です。


  ま…、ま…、とにかく
  今回の手順書については、
  再度、センター長とリーダーのイトーさんに
  検討してもらうってコトで…、
  とにかく、ミスのないように確認するってコトで…、
  必ず実行してくださいね…

そう言うイシダさんの声は、だんだん小さくなっていきました。

予期せぬ反乱にイシダさん、思わぬ苦戦を強いられました!

笹やんにとっては、自ら手を下すことなく天敵を追い払うことが
できたので、予期せぬ幸運と言えるでしょう。

そして、センター長とイトーさん…、

この二人は何だったのでしょう…?
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