笹やん 喧嘩腰

今日、バイト先に、例のコンサルの女性・イシダさんが
やって来ました。

先月、ここで
『ミスゼロ推進運動』と呼ばれる、作業上のミスを
なくすための説明に来て以来です。


今回もイシダさんは、キツイ香水の匂いをプンプンさせ、
コテコテの濃い化粧でキメていました。


　　おはよーございまーす！

　　　　おはよーございまーす！

イシダさんは、センターの中を歩き回りながら、人に会うたび、
やたら元気そうな声であいさつしていました。

ところが、あいさつされた方は…、まぁ、ここの社員の人は
ちゃんとあいさつを返していましたが、バイトにいたっては、
ほぼ無視、知らん顔…。

せいぜい、ちょこん！と頭を下げる程度でした。


　　何？　あのオバサン…。

　　さあ…。

　　誰？　あのオバサン…。

　　知んね…。

声に出して言う人はいませんが、そんな無言の会話が、
あちらこちらでやり取りされている空気が感じられました。

どうやらイシダさんは、『ミスゼロ推進運動』なるものが
きちんとセンターで実践されているか、それをチェックして
いるようでした。


センター長が商品の出庫現場に来て、笹やんを呼び、
こんなことを言っていました。

　　笹○、今日はコンサルのイシダさんが
　　オマエの担当現場もチェックするからな！
　　なにか指摘されたら、ちゃんと覚えておいて、
　　後日、改善するようにしとけよ…　なっ！

イシダ…と聞いて、笹やんの形相は一変した…
ように見えました。

　　えぇ～！
　　あの“ニオイ”また来てるんですかぁ？

笹やんは、イシダさんのこと“ニオイ”って呼んでます。

センター長、ちょっと目を険しくして笹やんに言いました。

　　なんだ？　ニオイって…？
　　それより、オマエ、イシダさんにあまり
　　失礼なこと言うなよ！
　　いいか？
　　紳士的に接するようにな…、紳士的に！

言われて笹やん、頭を掻きながら、ハァ…と生返事…。


そして、昼休憩の10分ぐらい前…、

イシダさんが、僕らの作業状況をジッと見てるなぁ…と
思っていたら、笹やんを見つけたらしく、そっちの方へ
歩いていきました。

見つかった時の笹やん…、イシダさんを避けるように
ササッとフォークリフトに乗り込みましたが、

　　笹○さ～ん！

大きな声でイシダさんに呼び止められ、片手でリフトの
ハンドルを取り、上体をちょっと前かがみにしたまま
笹やん、停止。

フォークリフトが1回だけ、ピッ！と
電子音を発しました。

そして、さも何事もなかったように、ゆっくりと
イシダさんの方へ顔を向ける笹やん。


やがて、イシダさんは笹やんに近づき、アレコレと
何か質問したり、指摘しているようでした。

始めのうちは、頷きながら聞いていた笹やんでしたが、
次第に目つきが険しくなり、明らかに、
あぁ、笹やん、イラついているな…とわかりました。

そのうち笹やん、大きな声で、

　　なにが言いたいので…？

と、イシダさんに言えば、

　　だからぁ～…、

と、言ってイシダさんは、またペラペラ話し始めました。

　　だから、なにが言いたいので…？

と、再び笹やんの大声。

　　今、言ったじゃない！
　　聞いてないの～？

イシダさん、ちょっとムッときたっぽいですが、
説明を続けていました。

すると今度は笹やん、

　　どうしたいんで…？

いくらか声を落ち着かせて、そう言いました。

ふん…と、イシダさんは鼻で溜め息をつき、両手を腰に
あて、しばらく笹やんの顔を睨むように見ていました。

笹やんは、片足を床に、もう一方の足はリフトの台に
乗せたままの体勢で、

　　で…、どうしたいんで…？

を繰り返しています。

もう、明らかに喧嘩腰！
始めからイシダさんの話を聞こうと思ってません！

　　え？
　　どうしろと言うんで…？

こんなコトばかり言ってます。

昼休憩の時間を過ぎてしまったこともあり、
イシダさんは、

　　ま、とりあえず、どうするべきか
　　自分で考えてみてください。
　　またチェックしに来ますから…。

そう言って、その場を去って行きました。

彼女は、笹やんにとって天敵になってしまったようです。


昼過ぎ…、

笹やんは、にこやかな表情で快活にフォークリフトを
操り、商品を出庫したりしていました。

イシダさんに指摘されたことなど、もうすっかり
頭から吹っ飛んだようで、ハツラツと業務に励んで
ました。

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タグ：笹やん