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笹やん 猫じゃらし

バイト先の冷凍食品センターの構内に、グレイと黒の縞模様の
ノラ猫が、よく姿を見せるようになりました。

かれコレ一週間ほど、笹やんは、この迷い込んできたノラ猫に
エサを与え続け、こうして今では特定の時間になると、エサが
貰えると思って猫の方から姿を見せるようになったようで…

  タ~マ☆
  タマ、タマ☆

笹やんは、ノラ猫をタマと名づけました。

朝8時頃、それと夕方5時頃…

1日2回、笹やんはエサを与えます。

わざわざ近所のスーパーで、キャットフードを購入したらしく、
それを笹やんは、事務所の自分の机の引き出しに入れているとの
ことです。

  笹やんは猫が好き!

これは、以前から周りが言っていたことです。

笹やん自身、猫好きを認めており、ノラ猫を見るたびに、

  タ~マ☆
  タマ、タマ☆

そう声を掛けるのでした。

そうなのです。

笹やんは、目にした猫、全てタマなのです。

今回のタマは、見たところメス猫のようで、比較的、頭が
小さくて痩せ気味です。

他のバイトたちの話では、生後半年も経っていないほどだと
言うことです。


  タ~マ☆
  タマ、タマ☆

笹やんは、目を細めながら、エサを入れた器を手に、ノラ猫に
声を掛けています。

1週間経つとは言え、ノラ猫ですから警戒心が強いようで、
簡単に近寄ってきません。

エサを求めながらも、ノラ猫・タマは笹やんのほか、周りにいる
僕らの目を気にしながら、その場でジッとしています。

それでも…

  タ~マ☆
  タマ、タマ☆

笹やんが声を掛けると、時々、

  ミャ~

と、やや弱々しげな鳴き声を上げて応じているようです。

  よし、来い!
  タマ!

笹やんがそう言って立ち上がると、ノラ猫は逃げて行って
しまいました。

しかし、これがいつものパターンらしく…

笹やんは、事務所脇のベンチから4、5歩離れた位置にエサの
器を置くと、ベンチに戻って腰掛けました。

笹やんと僕らバイトは、自販機で缶コーヒーなどを買って、
しばらく休憩することにしました。

すると…

再びノラ猫・タマが静かに現われ、周囲を気にしつつ、
笹やんが置いたエサの器へ顔をゆっくり近づけて、

  カリカリ…
  コリ…
  カリカリカリ…

エサを食べ始めたではありませんか!

ノラ猫・タマは食べながらも、目を周りに向け、警戒して
いる様子です。

  やっぱり、メス猫だね。
  メスの方が警戒心が強いからね。


  でも、だいぶ懐いてきたんじゃない?
  こうしてみんなが見てても
  逃げなくなったから。

熟年女子バイトたちも、タマの様子を微笑みながら見つめて
います。

  だけどさぁ、笹やんが
  休みの日はどうするの?

突然、若手バイトのスダさんが、そんなことを言い出しました。

つまり、笹やんが休みの日、誰がタマにエサを与えるのかと
言うことです。

  イイんじゃない?
  放っておけば…
  所詮、ノラ猫なんだし、
  1日ぐらい何も食べなくても
  大丈夫よ…。


  それは可哀そうだよ。
  きっとエサが貰えると思って、
  笹やんがいなくても、ここに来て
  ミャアミャア鳴くぞ


  それならアンタが代わりに
  あげれば?


  いやぁ、オレ、こういうの
  慣れてないんで…


  別に慣れとか必要ないでしょ!
  ただエサやるだけじゃん!


  いやぁ、それは…

スダさんと、熟年女子バイトの会話に、笹やんも…

  おう、スダ!
  オマエ、代わりにタマの
  エサやってくれ!

笹やんは、たいてい火曜日が休みです。時に曜日が変更
することもあるそうですが、火曜日でしたらスダさんが
出勤する曜日なので、彼に任せるのが最適と言うことです。

  なっ、スダ!
  オレの机の一番下の引き出しに
  エサが入っているから。
  これぐらい器に入れてナ…
  あまり多くてもイカン!
  少なくてもイカンぞ!
  いいな!?


  だから、そう言うのがオレ、
  慣れてないってコトじゃん!
  オレ、ペット飼ったことないし!


  だから、見たらわかるやろ!
  これぐらい入れろっての!


  そんなイイ加減なことでいいの?
  何かあったらオレ、知らないよ!


  オマエ、何をそんな…


  生き物だから!


  オマエって、妙な所で
  めっちゃ神経質になるなぁ…?


  生き物だから!


  生き物だからエサやるんじゃないか!
  そんなに量のこと気にしなくてイイから…


  何かあったら…
  だって生き物だから!


  ・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・

スダさんは、笹やんを慕う心熱き若者で、僕も好感を持って
いるのですが、時々、このようにワケがかわらないことを
口走ったりします。。。

この時も、笹やんは半ば呆れた感じで、無言のままスダさんの
顔を覗き見るようにしていました。

  大丈夫よ、笹やん!
  1日ぐらい…
  ノラ猫だから、いざとなれば
  自分でエサぐらい探すわよ


  そうだよ。
  そんなに毎日、世話しなくても
  イイんだよ!

熟年女子バイトたちから言われて、笹やんも、これ以上、
スダさんへ頼むことは諦めたようです。

やがて…

エサを食べ終えたタマは、その場に座り込んで、毛繕いを
始めました。

その様子がとても可愛らしく、僕らは作業場に戻ることを
忘れてしまいました。

何を思ったのか、笹やんが近くに茂っている「猫じゃらし」を
1本引き抜き、タマの方へ近寄っていきました。

  タ~マ☆
  タマ、タマ☆

猫じゃらしの大きな穂を揺らしながら、笹やんは声を掛けます。

タマはチラリと猫じゃらしの穂を見たようでしたが、笹やんに
目を向け、警戒しているようでした。

  ほら、ほ~ら…
  タマ、タマ☆

笹やんは、尚も猫じゃらしを揺らし、タマの気を惹こうとして
います。

一歩、また一歩…

笹やんは猫じゃらしを手にして、タマに近寄っていきます。

そのうち、タマは前足を踏ん張るようにして構え、猫じゃらし
には目もくれず、笹やんを睨んでいるのでした。

  タ~マ☆
  タマ、タマ☆

笹やんが、また一歩、タマに近寄ったそのとき、

  シャァー!
  ンギャァー!

タマが叫び、前足をサッと振り下ろしたように見えました。

  てっ!

同時に、笹やんの声が聞こえました。

  いてぇーっ!

笹やんは、右手の甲を引っ掛かれたみたいです。

左の手で右手を抑えながら、

  やっぱり猫はなかなか懐かん…
  3日で恩を忘れるとも言うしナ…

ぶつぶつ、そんなコトをつぶやいていました。。。

それでも、

  笹やんは猫が好き!

らしく、まだ笹やんを睨んでいるタマを、目を細めて
見ているのでした。

そして、笹やんは傷の手当てをするため、事務所へ入って
いきました。

しばらくすると…

  アホっ!
  食品を扱うセンター内に
  ノラ猫なんか入れるなよッ!

センター長の罵声が、事務所の窓から漏れ聞こえてくる
のでした。。。
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