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笹やん 回り道

バイト先の冷凍食品センターでは、実に様々な人たちが
働いています。

老若男女、老いも若きも、男も女も、それぞれ何らかの
理由があって、ここでバイトしています。

単におこづかいが欲しいからと言うだけの理由で働いて
いる人もいれば…

何かしら深いワケありっぽい雰囲気を漂わせつつ、黙々と
働く人も…

そのほか…

とりあえず、ここでバイトしながら就活している人もいて、
今日は笹やんチームから、若い男子バイト2名が、晴れて
就職先が決まり、1人は今日限りで、もう1人は今度の水曜で
ここを去ることになりました。

二人とも24、25歳の若さで、ここでのバイトを3年くらい
続けていました。

ちょっと中途半端な時期ではありますが、それぞれ5月の
連休明けから就職先へ勤めることになったそうです。

ちなみに、1人は大型二種免許を見事に取って、路線バスの
運転手として採用され、もう1人は、飼料メーカーの倉庫で
勤務することになり、フォークリフトを操って仕事をする
そうです。

  ヨカッタじゃない☆
  二人とも。
  若いんだから頑張ってね!

笹やんチームの中で、バイトのリーダー格である熟年女子の
キノシタさんが、まるで自分の息子の事ように二人の就職を
喜んでいるのが、とても印象的でした。

彼ら二人は、仕事振りも真面目で、キノシタさんたち熟年女子
からの評判が良く、日頃から可愛がられていたようでした。

そして、午後2時半…

仕分け作業が一段落して、ひと休みしようと言う頃…

  おい、笹やん!
  あの二人の就職のお祝いをするから
  休憩室へみんなを集めろ!
  その前に、笹やん。
  近所のコンビニにでも行って、みんなの
  飲み物やお菓子を買って来てよ!

と、キノシタさんは完璧な命令形で笹やんに言いつけました。

  は…?

突然そんなコトを言われたので、笹やんはキョトン顔。。。

  は…?じゃねーわ!
  あの二人には笹やんも随分
  助けられたやろ!
  クソの役にも立たんような
  バイトもおるけど、あの二人は
  よくやってくれたやろ!
  めでたく就職するんやから、
  細やかながら祝ってやろうや!
  なあ、笹やん。

なんでオレ、こいつにこんな言われ方されなアカンのや…って
思いがモロに顔に出ている笹やん。。。

  祝ってやる…ってのはイイけど、
  なんでオレが、みんなの飲み物や
  菓子を買わなアカンのや…?

キノシタさんへ、そう問い掛ける笹やん。。。

すると、今度は別の熟年女子バイトたちが、

  ナニ言ってるの笹やん!
  あんた、社員でしょ!


  そうよ!
  しかも管理者なんだから
  それくらいしてもイイでしょ!


  ちゃんと就職先も決まって
  それで辞めて行くんだから
  みんなで送り出してあげなきゃ!

笹やんを取り囲むようにして、代わる代わる言い寄ってます。

圧倒された笹やん…

  わかったワ!
  買って来りゃエエんだろ!

と、吐き捨てるように言って、出ていきました。。。

でも本当は、別段、笹やんが、みんなの分の飲み物や菓子を
買う筋合いはないと思うのですが…

熟年女子バイトたちに押し切られ、従わないといけないような
空気になってしまったようで。。。

それから20分ほど後…

休憩室に笹やんチームのバイトが集まり、長机の上には、笹やんが
買ってきたペットボトル飲料や紙コップ、スナック菓子やら煎餅
などが賑やかに並べられました。

就職が決まった若い二人の男子バイトは、みんなの前に立たされ、
ボソボソと照れ臭そうにお礼を言いました。

  おい!笹やん。
  代表して何か言ってやれ!

またもキノシタさんが笹やんに命令…。

笹やん、ムッとした感じで軽く舌打ちしながらも、

  ええ~、まぁ~、ええ~っとですね…
  その、二人にはですね…
  とてもよく…、とても、とても…
  仕事、よくやってくれてですね…
  オレも助かりました。
  ホントはもっと、ここで働いていて
  欲しいところですがね…
  まぁ~、ええ~、
  二人は晴れてですね…
  晴れて勤め先も決まり…
  雨あがれば晴れて… ですね。
  晴々とした気持ちで…、そのぉ…
  新しい仕事、頑張ってほしい…
  このようにですね…
  思うんでありますね。

たどたどしく喋っていると…

  おい!もうエエわ!
  乾杯しろ!

完全に笹やんを見下しているキノシタさんから指令。。。

カンパ~イ☆

笹やんも、僕らバイトも紙コップに緑茶やらジュースやら、
好き好きに注ぎ、乾杯しました。

また、好き好きに菓子を頬張りながら談笑したりしました。

しばらくして…

再び若い男子バイト二人が、みんなの前へ出て立たされる
ことになったかと思うと…

二人の前に、それぞれ熟年女子バイトが、何やら包装紙に
包まれた小さな箱を手渡したのです。

ああ、そうだったのか…

僕は、何とも言えない温かさに包まれたような感動を覚え
ました。

キノシタさんはコレを手渡すために、こうしてみんなを
集めたわけです。

聞けば、キノシタさんの発案で、熟年女子バイトたちが
少しずつお金を出し合い、新たな門出の祝いにと置時計を
用意したそうです。

ここでバイトをしていて、こんなシーンは初めてでした。

  あんまり大した物じゃないけど、
  100均のヤツとは違うからナ

口の悪いキノシタさんが、笑い掛けながら二人に向って
言いました。

若い男子バイト二人は、キノシタさんたちにペコペコと
何度も頭を下げてお辞儀を繰り返していました。

はにかんだように笑い、大切そうに小箱を両手で抱え、
尚もペコペコお辞儀をする二人に、僕らは拍手を送り
ました。

こうして、とても細やかながら祝賀会は終わったかに
思えたのですが…

  オレもなぁ~、初めて就職する時は
  祝ってもらったモンだけどなぁ…

笹やんが、そんなコトを言い出しました。

そして、二人の男子バイトに向かって、

  オマエら、このままずっと
  勤め続けられれば、それに
  越したことはない…
  でもなぁ…、ま、若いんだから…
  ま…、この先、いろいろだわなぁ~

ポンと二人の肩を軽く叩いて、何だか意味ありそうで、
なさそうなコトを言うのでした。

  なんや、笹やん!
  せっかくの二人の門出に…
  何が言いたいんや?


  笹やんは、ここで働く前に
  いろいろあったの?


  そうだよね~
  笹やんは、いろいろ
  ありそうだよね~

熟年女子バイトたちが口々に笹やんに言うと、笹やんは急に
得意気な顔になって、

  おう、いろいろあったねぇ…
  オレの場合、高校出てから
  先ずダンプに乗って砂利を運ぶ
  仕事をした。
  ま、半年間は見習いだったけどな…
  それから仲間3人で土建の会社を
  立ち上げようって話になって、
  用水路を作ったり、山の中に道作ったり…
  そのうち仲間の一人が事故で死んじまった…。
  その頃、景気が悪くなって借金も増え、
  会社を畳むことになって…
  その後の2、3年間は日雇いの仕事で
  食い繋いだ…
  日本全国、あちらこちらへ行って働いた。
  で…、ここへ来る前に別の冷凍食品会社の
  倉庫で働いてたけど、そこの所長と
  一悶着あってなぁ…
  そうこうしてると、ここへ来て働いてみないかと
  誘われて…
  もうここで20年近く経つかなぁ…

そんな話をしました。

なるほどなぁ…、笹やん、いろいろあったんだなぁ…

  もうエエわ!
  笹やんの転職履歴なんか聞いても
  何の足しにもならんわっ!

と、キノシタさんの一声。。。

笹やん、チラッとキノシタさんへ目をやって、すぐに遠くを
見るような目つきで、こう言いました。

  ホントはなぁ…
  オレだって一つの所で勤め続けて
  いたかったんだけどなぁ…
  知らず知らず回り道をしたモンだ…

回り道…か。

人は大なり小なり、生きているうちに回り道をしていくもの
かも知れないと思いました。

意思に関わらず、どうしたって真っすぐに進めなくなって
しまうのではないでしょうか?

笹やん、こうして時々、意味深げなコトを言います。

が…

その後で、こう言いました。

  ここ辞めたら、蕎麦屋でも
  やりたいなぁ…

って、まだやるンかい!?

まわり回って、辿り着くのが蕎麦屋ってワケか…、笹やん?

  ムリ、ムリ!
  経験もないのに蕎麦屋なんて
  ムリだ!


  でもさぁ、笹やんの蕎麦、
  食べてみたいよね☆


  ええーっ!
  何かメッチャのびちゃってそうで…


  だよね~。

熟年女子たちは、無邪気に笹やんをコケにするのでした…。
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