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笹やん 指南役

先月から新規納品先として配達が始まったラーメンの
チェーン店。

店舗数は12店舗で、週3日配送です。

月、木、土曜日の朝9時頃に納品することになっており、
それぞれ前日の夕方5時半から出庫、仕分け作業を行い
ます。

このラーメンチェーン店の担当は、ここの社員である
イトーさんです。

そして5時半になり、バイト先の冷凍食品センターの
作業場でラーメンチェーン店へ納品する商品の出庫、
仕分けが始まりました。

今日は、僕が応援に駆り出されました。

と言いますのも…

当初、笹やんが担当する予定だったのですが、

  これ以上、担当が増えたらマジ、
  オレ、お手上げじゃんねえ!

などと猛然と抗議して、結局、担当件数が少ない
イトーさんが受け持つことに…

しかし、担当件数が少ないだけにイトーさんの手元には
バイト人数が限られていて、このラーメンチェーン店の
作業を賄うだけのゆとりがない。。。

それで話し合いにより、笹やんの手持ちのバイトを毎回、
3名、イトーさんに貸し出すということになりました。

で…

今回は僕、それと親しくしているヤノさん、そして、
無口、無表情、無感情の完璧なる三無主義者と言われる
ナイトーさん…、以上3人がイトーさんの指示の下、
作業することになりました。

なお、この時間、イトーさんは既存の担当納品先の作業を
している場合が多く、ラーメンチェーン店分の作業は、
ほとんどバイト3名で処理しています。

僕が、この作業をするのは今日で3回目ですが、どちらかと
言うとやり易い作業です。

まず商品のアイテムが限られているので間違えることがなく、
種類的にも、豚バラブロック肉、豚ロース10Kg、粗挽きミンチ
10Kgなどの冷凍肉。

それと、魚介エキススープの素とか旨味ダシと言った液体
スープを冷凍パックしたものの他、2種類の冷凍麺、枝豆や
椎茸の冷凍品ぐらいなモンです。

それでも12店舗分になりますので、3人で対応していても
1時間前後の作業になります。

僕らが各店舗ごとに納品する商品を仕分け終えた頃、遠くで
大きな声があがりました。

  あ゛あ゛~~~っ!

複数の声でした。

そっちの方へ振り向くと…

どうやら商品の格納ラック内で、何かあったようです。

格納庫のドアの前に人だかりが見え、そこから声があがった
ようでした。

6時40分頃、作業を終えた僕らは、ワクワクしながらドアの
方へ行きました。

そこには…

フォークリフトに乗ったまま、固まっているイトーさんを
中心に、格納庫内と近くの仕分場で作業していた社員や
バイト数名が集まっているのでした。

何があったのかと見てみると…

どうやらイトーさんがリフト操作を誤ったようで、リフトの
フォークが持ち上がったまま停止していて、そのフォークは
下から3段目のラックの商品のダンボールに突き刺さっている
のでした。。。

  ズコッ!!

っていう音がしたのかどうか知りませんけど、たぶん、
突き刺さった時、それなりの音がしたはずで…

それで周りで作業していたバイトたちが声をあげたと言う
わけです。

イトーさんの周りには次々と人がたかってきます。

みんな、何事だ!?って感じで、ドヤドヤとやって来るの
でした。

そして、ここにきてイトーさんの目が、ようやく泳ぎ始めた
ようです。

これまではビックリし過ぎたのか、完全に固まっていた
イトーさんですが、だんだん事態が飲み込めてきたようで、
それに合わせて、目の泳ぎも高速になってきているようです。

何しろ“泳ぎ目のイトー”と呼ばれているくらいですから、
その泳がせ方は尋常ではありません。

人間の目って、こんなに速くキョロキョロできるんだ!って
思うほど、ホント、信じられないような速さなのです。

左右に毎秒5往復…、それくらい高速な目の泳ぎです。

  おい!
  どうしたんや?

笹やんの大きな声が聞こえました。

いつの間にか、笹やんも来ていたのでした。

  イトー!
  おまえ、何やっとるんや!?

半分笑顔で、笹やんがイトーさんを叱りつけるように
言いました。

見事なまでに動揺し切って高速で目を泳がせているイトーさん、
ちょっと口を開いたものの言葉が出てこないみたいです。

  ・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・

無言のイトーさんを見ながら、さらに笑顔の笹やん。。。

  キョロキョロキョロ…
  キョロキョロ
  キョロキョロ…
  キョロキョロキョロキョロ…

  キョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロ
    キョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロ
  キョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロキョロ・・・・・

今にも眼球が飛び出してくるのではないかと思われるほど
恐ろしく小刻みに、しかも超高速に目を泳がせることで、
イトーさんは言葉の代わりに、笹やんへ何か応答している
のかも知れません。。。

  まあ、とりあえず引けや!

イトーさんの応答が伝わったように、笹やんが指示しました。

つまり、ダンボールに突き刺さったままのフォークを引けと
いう意味です。

笹やんの指南に対し、素直にイトーさんは、やや指先を
振るわせつつレバーを引きました。

  ウイィ~ン…、キュキュッ!

フォークが引いたと同時に、ダンボールの摩擦音が聞こえて
きました。

イトーさんが突き刺した商品は、僕らが仕分けしたラーメン
チェーン店の冷凍麺のひとつ「ストレート細麺」でした。

まだ動揺が治まらないイトーさんによれば、明日、この商品が
入庫する予定なので、在庫を下段ラックに移動させようとして
リフト操作したものの、パレットに通すはずがダンボールを
突き刺してしまったとのことでした。

実を言いますとイトーさんは、フォークリフトの操作があまり
上手くないのでした。

  よし、イトー。
  降ろせや!

再び笹やんが指示しました。

今度は、破損させた「ストレート細麺」のパレットを降ろせと
いう意味です。

イトーさんは緊張の面持ちで、目を泳がせつつリフトのレバーを
操ります。

わずかにフォークを下げ、パレットにはめ込もうとしますが…

  ガギッ!

ちょっと位置がズレているようで、パレットの上部にフォークが
ぶつかり、パレットごとラックの支柱に当たったようです。

  アワっ!!

慌てたイトーさんが叫びました。

  ちゃんと見ろ!

笹やんが大声で言いました。

その声に驚いたのか、また誤ってパレットがラックの支柱に
当たります。

  アワっ!!
   わわっ…!


  慌てるな!
  ちゃんと見ろ!
  ちゃんと!


  わわっ!


  こら、イトー!
  ゆっくりやらんか!
  そのままじゃ、引っ掛かって
  取れんゾ!


  わわっ…?


  前へ出すな!


  わわっ…?


  前へ出すなっつーの!


  わわっ…?


  先っぽだけ入れて、
  少し持ち上げろ!


  アワワ…


  おいっ!
  前へ行くなっつーの!


  ??


  ようし、ゆっくり…
  そのままゆっくり…

指南役を務めた笹やんのおかげで、何とかパレットを地面に
降ろすことができましたが…

こわばった顔つきで目を泳がしているイトーさん。

  もっとよく見てやれ!
  どうするんや? これ…

イトーさんが突き刺してダメにした商品は2ケース…。

見事に2本のフォークが、それぞれダンボールを突き刺した
のでした。

  おまえ、なぁ…

ジッとイトーさんの顔を見据え、笹やんがニッと笑って
こう言いました。

  キョロキョロすんなっ!
  ちゃんと見てやれ!

ここで周りにいた社員、バイト一同が笑い出しました。

泳ぎ目のイトーさんに「ちゃんと見ろ」と言ったって…
むずかしいかもナァ…。
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