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笹やん 卍固め

昼休み。熱いお茶を飲もうと思って食堂へ行くと、熟年
女子バイトたちが集まって何やら話に盛り上がっていま
した。

数人の女子バイトたちの中にはシマダさんも交じって
いました。

シマダさんと言えば…

バイト先の冷凍食品センターの社員・笹やんとの交際が
噂されて、かれコレ3ヵ月ほど経ちますが…

あれから、どんなふうに進展したのか…?

そこの所が熟年女子バイトたちも気になっていたのでしょう。

シマダさんを囲むようにして、ワイワイ、ペチャクチャと
盛り上がっているようです。

思わず僕とバイト仲間のヤノさんは、耳を立てつつ、彼女ら
の方へ近寄っていきました。

  こう言っちゃアレだけどサァ…
  笹やんが真剣に養ってくれるとは
  思えないしねぇ


  うんうん。
  って言うか、笹やんって、バツイチとか
  バツ2って言われてンじゃん!
  家庭的じゃないんだよ!


  え!?
  バツイチって聞いてたけど、
  2なの?


  それがよくわかんない!
  シマダさんには悪いけど、
  笹やんって、手当たり次第なんだよ…
  ちょっと気に入った女を見つけると、
  すぐに手を出すから…


  そうそう!
  こう見えても、あたしだって
  ここにバイト来た直後、声掛けられ
  たんだよ!


  へえ!
  マジっ?


  マジだって!
  晩メシ食いに行こうとか、
  休みの日にドライブがてら
  海でも見に行こうとか…


  はあ!?
  マジっ?


  マジ!マジ!
  その後で聞いたんだけど、
  笹やんって、すぐに女と一緒に
  住みたがるらしくて…
  そういうコトもあって、バツ2とか
  バツ3とか言われちゃうんじゃない?


  ってわけで、どうなの?
  シマダさん的には?

この場に笹やんが居ないからこそ、こんな話ができるわけで…

女って恐ろしい…って思いつつも、僕とヤノさんはシマダさん
の顔をしげしげと見るのでした。。。

そして、シマダさんは案外、余裕の面持ちでニコニコ笑い
ながら、こう言うのでした。

  どうなの?って言われてもねぇ…
  わたし、ゼンゼンそんな気ないし…
  笹やんに誘われて、週末に笹やんのウチで
  晩ごはん食べて…
  それだけヨ


シマダさんは結婚歴があるのかどうか…

周りのバイトから聞いた話では結婚歴はないみたいです。

40半ばで独り暮らし。

住んでる所が笹やんの近所らしく、これまでに何度か
笹やんのウチで一緒に食事しているとのことです。

普段からニコニコと笑顔を絶やさない明るい感じの人で、
周囲から好感を持たれていますし、実際に話してみると
スッキリとした正直な性格の女性だと思います。


  もう何回ぐらい笹やんのウチで?


  う~ん、5回かなぁ…


  で?
  その度にシマダさんが料理を
  作ってあげてるの?


  まぁ、作るって言っても、
  お鍋か鉄板焼きばかりで…
  わたし、料理は得意じゃない方で…


  で?
  食事のあと、どうしてるの?


  え?
  どうって…
  少しテレビ観ながら話して、
  それで帰るわよ


  マジで?


  やだぁ!
  ナニ?


  いやぁ~、って言うか、
  笹やんが何もせずにシマダさんを
  帰すとは思えないんで…


  アラそう?
  わたし、チャッチャと立ち上げって、
  「明日、早いからもう帰る」って、
  それだけ言って帰っちゃってるわよ


  ふうん…


  ナニ?
  何か期待してない?


  いやぁ~
  笹やんがねぇ…

ここでシマダさん以外のバイトは、うんうん…と頷くので
した。。。


  ズバリ聞くけどさぁ、
  この先、笹やんとどうするつもり?


  え?
  どうって…
  わたしとしては、ごはん友だちって言うか…
  笹やんって、結構、話題が豊富で面白いのよ


  ああ、話題が豊富なのは知ってる…
  どうでもイイ話題がほとんどだけどね…。


  で?
  シマダさん的には、これでイイの?
  って言うか、このままで済むと思ってる?


  やだぁ!
  何だかヘンな感じに聞こえちゃうけど…
  わたしは、笹やんのウチにお邪魔して、
  お話しながらごはん食べて…
  そんな付き合いでイイと思ってるけど


  そっかー!
  それが続けば、笹やんは大人の男に
  なった…ってコトになるね!


  って言うか、笹やんも歳かも…
  大人になったというより、
  大人しくなっちゃったんじゃない?

と、熟年女子バイトの一人がニヤニヤしながら、自分の股間の
辺りを指差したところで休憩時間終了。。。

僕らは、ぞろぞろと作業場へ向いました。

尚、シマダさんは、笹やんチームではありませんので食堂を
出ると、僕らとは別の方向へ歩いて行きました。

そんなシマダさんの後ろ姿を見送り、熟年女子バイトたちが、

  シマダさんは、純情な性格なんだよ。
  だから笹やんのイヤらしさを
  撥ねつけられるんだよ!


  だよね~、今度は笹やんに
  聞いてみようよ!


  そうだね!
  笹やんがどう考えてるか、
  聞いてみようよ!

そんなことを言っていましたので、ヤノさんと僕は、内心、
ワクワク、ソワソワして来たのでした。。。

で…

午後の作業が一段落した頃…

熟年女子バイトのリーダー格・キノシタさんが笹やんをつかまえ、

  おい、笹やん。
  あれからシマダさんとはどうなの?
  真剣に先々のコト考えてるの?

大きな声でストレートに尋ねてきました。

これに笹やんは、眉をひそめて、

  このババァ、こんな所で
  面倒臭い質問しやがって!

って思いを露骨に顔に出しながら、

  は…?
  シマダさん?
  先々のコトって?

そんなふうにトボケ気味な口調で返します。

キノシタさんは一段とストレートに、しかもタメ口で、

  何をトボけた言い方しとるんや!
  このオヤジは!
  もう何回もウチへ連れ込んどるクセに!
  シマダさんと一緒になる気はあるんか、
  ないんか?
  どっちなんや?

と、大声で言うのでした。。。

苦虫をつぶしたような顔…

まさしく、そんな表現がピッタリの顔つきになった笹やん…

一方、僕を含めて周囲のバイトたちは好奇心を顔中に表わし、
笹やんに注目するのでした。

  ・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・。

沈黙の笹やん。。。

  言っとくが、シマダさんは、笹やんのコトを
  好きとか嫌いとか言っとるわけじゃないゾ!
  あの人は純真な性格だから、ごはん友だちだと
  思っていることだけ伝えておく!
  その上で、笹やんとしては、先々どうする
  つもりなんや…ってコトを聞きたいだけや!

どこまでもストレートなキノシタさん。

  ・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・。

沈黙を続ける笹やん。。。

しかし、その表情から…

  このクソババァ!
  今、ここで、何でそんな話になるんや!?

って、心の中で叫んでいるに違いありません…。

  おい、笹やん!
  シマダさんのために言っておくゾ!
  イヤらしいこと考えるのは止めにしとけ!
  ホントに一緒になりたいんやったら、
  誠意を見せてやれ!
  わかるか? 笹やん!
  誠意やゾ!
  性器やないゾ!

って、おいおい、キノシタさん…、そんなギャグ言いたかったわけ?

それでも周りはウケたらしく、特に若手バイトたちは大笑いして
います。

そんな中、若手バイトの一人、スダさんが、

  笹やん!
  オレ、応援します!

彼も結構なタメ口を使うバイトで、いつも平気で30以上も年上で、
しかも社員である笹やんを、公然と「笹やん」と呼んでます。。。

そんなスダさんが「応援します!」って言い出すモンですから、
ますます周囲は好奇心を露わにしました。

一方の笹やんは、

  ・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・。

沈黙しつつも、やや戸惑った表情。。。

  一体、コイツは何を言い出すンや!

って思っていることでしょう。

  ごはん友だちからで
  いいじゃないッスか!
  少しイヤらしいくらいで
  いいじゃないッスか!
  恋愛に年齢は関係ないッスよ!
  オレ、応援します!

いきなりどうしてスダさんは、こんなに熱くなってしまったのか
知りませんが、大きな声を張り上げ、そう言い放ったのでした。

日頃から、笹やん!笹やん!と、まるで友達のように笹やんに
接しているスダさんですが、キノシタさんから追及されるように
尋ねられている笹やんを見て、何とか肩を持ってやろうと言う
気持ちになったのかも知れません。

が…

  って言うかよぉ、元はと言えば
  オメーが言い触らすから、
  こんなコトになったんだろ!

沈黙を破った笹やんが言ったのは、キノシタさんの質問に
答えたのではなく、スダさんに対しての言葉でした。

  ・・・・・・・・・・・・・。

今度はスダさんが沈黙。。。

  オレはなぁ、スダよぉ…
  まあ、こうなったら正直言うけどよぉ…
  オレはなぁ、シマダさんを別にどうこうする
  つもりはないんやゾ。
  オレだってなぁ…
  一緒にメシ食いながら、話しでもしてりゃ
  それでイイんだ。
  先のコトってのは、先のコトであって
  今、別に何も考える気にならないんだ…

そう言いながら笹やんは、スダさんに近づいて行き、ゆっくりと
スダさんに卍固めをかけ始めるのでした。。。

  ぐっ!ハッ!!
  イテッ!
  痛ぇーっ!

そう言われれば、そもそもスダさんが、笹やんとシマダさんが
仲良さそうにスーパーで買い物しているのを目撃したほか、
笹やんのウチで一緒に食事していることも見つけて、それを
ここにいるほぼ全員に言い触らして回ったことが始まりでした。。。

ですから、センター長や他の社員、他のバイトたちも笹やんと
シマダさんのことは何度も耳にしており、それなりに気にして
いるみたいです。

が…

笹やんとしては、それが面白くない!

シマダさんに対して、実際に下心を持っているのかどうか…?

それはわからないにしても、笹やんとしては、しばらくの間、
シマダさんと静かに、そして楽しく付き合いたいと思って
いたようです。

それを…

キノシタさんもスダさんも…

もちろん、僕ら傍観者的なバイトたちも含め、笹やんの胸の中へ
土足でヅカヅカと踏み込んでしまったようなものです。

  痛ぇ──────っ!!!
    はうぅ───っ!!!


笹やんは静かに、極めて落ち着いた面持ちでスダさんに卍固めを
掛けているのでした。

激痛に耐え切れず、歯をむき出して絶叫するスダさん。。。

やがて、卍固めを解いた笹やん。

その顔は別に怒っているわけでもなし、哀しんでいるようでも
なし…

  ハアハアハア…
  ハアハア…
  ハアハアハア…
  ハア… ハア…

スダさんは肩を揺すって息を吐きながら、脇腹の辺りを
さすっています。

そんな彼の目も、笹やんに対して怒っているようでもなし、
反省しているわけでもなし…

つまり…

キノシタさん、スダさん、そして僕らも…

笹やんの気持ちを察して、今後はシマダさんとの仲をソッと
見守っていてあげよう…って気は全くなく…

笹やん自身も…

とりあえず今日のところは、この辺にしておいて、シマダさんの
ことについては、ま、そのうち何とかしよう!って感じなのかも
知れません。

ってコトで…

僕としては、今後、また何かあるだろうと期待しているのです。。。
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