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笹やん 浮かれ歌

先週から、新しく入った22歳のバイト女子…、みんなから
「ナッちゃん」と呼ばれているそうですが…

  小柄で丸顔で、メガネ
  掛けてて…
  ドクター・スランプの
  アラレちゃんみたい!

って言う人もいるようです。

あいにく彼女は、日曜日が休みで、僕は見ることが出来ませ
んでした。

そのアラレちゃんこと、ナッちゃんは、バイト先の冷凍食品
センターで、ノダさんという社員の管轄で作業しているそう
です。

その彼女がバイトに来てからと言うもの…

  ノダさんチームの作業生産性が
  著しく向上した!

とのことです。

ナッちゃんは、この前の月曜日から入り、木・日曜休みと
言う契約でして…

月曜日から、ノダさんチームのバイトたちに混じって作業を
始め、火曜日、水曜日と著しく、チームの作業スピードが
速まった!

つまり、予定時間より早く作業が終了したそうで、これは特に
出庫量が少なかったわけでも、作業人員が多かったわけでも
なかったそうです。

そして、金曜日、土曜日と続いて作業終了時間は早まったと
言います。

  これがナッちゃん効果だ!

と言われているようです。

  僕らのアラレちゃん!

とも言われているようで、ノダさんチームでは、ちょっとした
アイドル的存在になっているようで…

  別に、特にカワイイわけでもないしさぁ、
  かわいくないってことじゃないけど、
  まぁ、若くてニコニコしてるから、
  みんなに好かれやすいんじゃない?

近くにいたバイトの一人が、そう解説してくれました。。。

コレ、僕も何となくわかりますヨ。

男って、若い女子とか、キレイな女子、気になる女子がいると、
意味もなく張り切っちゃうところ、ありますよね。

ノダさんチームは、バイトが何人いるのか知りませんが、その
中で、22歳と言う若くて明るい女子がやってきたから、俄然、
男らは張り切って作業するようになり、結果、予定より早い
時間で終了させた…

ってわけです。

ちなみに、このセンターでは女子バイトも少なくありませんが、
ほとんど40代、50代です。

20代女子は、今回のナッちゃんを除いて、僕の知る限りでは
2、3人ほどだと思います。

そう言えば、その2、3人の20代女子バイトが属しているチームでは、
作業の生産性が向上したなんて聞いたコトないですねぇ…。

ってコトは、その2、3人の20代女子バイトって…?

ま…、それはイイとしまして…

いわゆる「ナッちゃん効果」は、今やセンター内で伝説になって
いるようで、

  若くてカワイイ女子バイトを
  各チームに1人ずつ採用すれば
  生産性が上がる!

  作業ルールとか管理体制の
  明瞭化とか、難しいコト言ってないで、
  若い女子を一人置くだけで作業の
  速度は上がる!

  これこそ大きなカイゼンだ!

そんな意見が、バイトだけでなく、一部の社員からも、マジで
上がっているとのことです。。。

  ねえねえ、笹やんさん!
  ウチのチームもナッちゃんみたいな
  女子を入れてくださいよぉ!


  そうっスよ!
  ウチも「ナッちゃん効果」やりましょうよ!
  そうすれば笹やんさんも、センター長から
  小言食わなくなるかも!

若い男子バイトたちが冗談交じりに、笹やんに言いました。

ところで、この笹やんチームは、他の社員に比べると、バイトの
人数は多く、女子バイトの比率も高いチームです。

但し、女子バイトはいずれも、40代、50代で、若くても30後半…。

そんな熟年女子バイトたちの目から、嫉妬と軽蔑の光線が
発射されていますが、若い男子バイトたちには、あまり
効かないのか…

  ねえ!笹やんさん!
  ウチはさぁ、アラレちゃんに
  対抗してさぁ、結衣ちゃんとか
  いろはちゃんみたいなの入れようヨ!


  いいねえ☆
  キャピキャピ路線で行こうよ!
  ねっ、笹やんさん☆

僕にはよくわかりませんが、言いたいコト言ってるようで。。。

すると笹やん、妙にニヤニヤしながら、

  ナッちゃんかぁ…
  ナッちゃんなぁ…

誰に言うともなく、そんなことをつぶやきつつ、商品を仕分けて
います。

そして、ふと手を止めて、

  ナッちゃんじゃなく、
  なぎさちゃんでイイんじゃない?

そう言いました。

  は…?
  なぎさちゃん?

若い男子バイトの一人が尋ねました。

それが耳に入っていないかのように、笹やんはつぶやき続ける
のでした。

  なぎさちゃんかぁ…
  うん、うん…
  なぎさちゃんだよ…

何のこっちゃ…と言うような顔で、若い男子バイトたちが
顔を見合わせてると、熟年女子バイトたちが小声で話し出し、
クスクス笑っています。

僕は思わず熟年女子たちの方を見ると、その中の一人が教えて
くれました。

  マエダさんだよ。
  マエダさんのことだって。

そう!

マエダさんというのは、52歳の熟年女子バイトで、スラッと
した体型で目鼻立ちがくっきり整った美顔。片平なぎさ似の
明るい感じの人です。

彼女は、以前、笹やんチームでしたが、笹やんがマエダさんに
好意と言いますか…、下心を持ち、彼女へのイヤらしくしつこい
接し方が周囲の反感を買い…

マエダさんを保護する意味で、チーム内の女子バイトの一人が、
センター長に言いつけたようで、それ以来、笹やんのチームから
外して、今はノダさんのチームにいるはずです。

  な~ぎさの~♪
  バル~コニーでぇ
  待ててぇ♪

ニヤニヤしたまま、そんな歌を口ずさむ笹やん…。

それを見て、首をかしげる若い男子バイトたち。。。

一方、熟年女子バイトたちは一斉に目から強烈な冷凍光線を
笹やんに浴びせ出しました。

  あ、あん、あん♪
  アア♪ な~ぎさの
  しんどばあっとぉ~♪

さらにワケのわからない歌を口ずさむ笹やん…。

やがて、僕らは、仕分け作業を済ませ、ひと休みしようと言う
ことになり、作業場を出ようとしましたが…

笹やんだけが、妙に辺りをキョロキョロして、突っ立っています。

そこを通り掛かったノダさんを見つけ、

  おっ!
  ノダ!
  ちょっと話がある…

そう言って、ノダさんの肩をポンと叩く笹やん。

  ・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・

その様子を見た僕たちは、暗黙のうち、互いに目を見合わせつつ、

  おい、ノダ。
  おまえンところ、ナッちゃんが
  入ってから生産性が上がった
  みたいなんで、マエダさんを
  オレのところに戻せや

ってなコトを笹やんは、ノダさんに言うんだろうなぁ…って思い
ながらも、

  笹やんって、マジでマエダさんを
  どうしようと言うんだろう?

そんな疑問も抱いたりするのでした。。。

聞くところによれば、このセンター内では、あちらこちらで
男女がつながったり、離れたり…

人によっては「不倫の温床」とも言われるそうですから…

今後の展開、ちょっと楽しみです…。
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