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笹やん 一家言

午前9時。

バイト先の冷凍食品センターで、センター長が、社員やバイトを
集めて、こう切り出しました。

  ミスゼロ推進活動について、ここで
  改めて、その重要性を理解してほしい!


ミスゼロ推進活動…、

それは、もう1年以上前になるでしょうか?

このセンター内の作業、例えば商品の入出庫、納品先ごとの
仕分、配送車への積込みと言った作業のミスをゼロにする
ことを目標として始まった、いわゆるカイゼン活動です。

この活動のために、わざわざコンサルタント会社とも
契約していて、いろいろアドバイスを受けたり、チェック
してもらっているようです。

でも…、

作業ミスは、なかなかゼロにならず…、

時によっては、連続して同じようなミスが起こる時もあり、
特に改善らしい改善は、されていないと言ってイイんじゃ
ないかと思います。。。

センター長が、あれこれ話を続けていますが、あまり真剣に
耳を傾けている人は、バイトだけでなく、社員の人たちも
見受けられません。。。

  イトー!

話の途中、いきなりセンター長が、社員のイトーさんへ
目をやり、大声で呼び掛けました。

これには本人のイトーさんが一番驚いたようで、ハッとした
ような表情になり、やがてキョロキョロと、驚くべき高速で
目を泳がせ始めました。

このイトーさんは、すぐに目を泳がせるクセがあります。

それも、見惚れてしまうほどの速さで、目を左右に泳がせ
るのです。

  イトー!
  オマエ、この活動の推進リーダーとして、
  この先、どうやって活動を盛り立てていく
  つもりなんだ?
  ちゃんとソコのところ、考えとるんだろーなッ!?

急にそんなコト聞かれても…、と言う顔でイトーさんが、
目をキョロキョロさせつつも、

  え? あ…?
  ええっと…ですね。
  え~、まぁ~…
  最近のミスの中で発生件数が
  多いもの順にリストを作って、
  その…、それで優先順位を
  つけてですね。
  その順に沿って、改善を推進
  して…ですね。

などと答えました。

するとセンター長、何となくワケあり気な目線をイトーさんに
送ると、

  で、オマエ、最近のミスの中で
  発生件数が多いものは何か、
  把握しとるンか?

と尋ねました。

これにイトーさん、さらに激しい速度で目を泳がせつつ、

  ええっと…ですね。
  え~、確か出庫ミス…、
  そう!
  類似商品の出庫商品間違いが
  目立っていると…、
  それとですね。
  庫内破損…ですね。
  商品の庫内移送中の破損ですね。

と答えると、センター長は、さらに声を張り上げて、

  出庫ミスと破損が多いのは以前から
  変わらんだろッ!
  それも、どの商品の出庫間違いが多いのか…、
  それも限られるだろッ!?
  破損にしても同じだゾ!
  どこのロケーションで、どの商品の破損が多いか…、
  以前から同じような傾向にあるだろッ!
  なぁ?
  昔から変わっとらんのだゾ!
  なぁ?
  つまり、カイゼン活動がされてないってコトだろ!
  なぁ?
  オマエ、今までリーダーとして何やっとたんや!?
  なぁ?
  そういう姿勢のオマエに、オレは敢えて
  この先、どうやって活動するかと聞いとるんや!
  まずオマエが率先して、この活動の重要性を
  理解しないとアカンやろ!
  なぁ?

と言いました。

しかも、センター長の得意技“なぁなぁ”攻撃が連続で
炸裂しています!

これにはイトーさん、相当のダメージを受けたらしく、
完全に固まった状態…、硬直した状態の中、目だけが
激しく泳いでいます。

そんなイトーさんの様子は、こう言っては失礼ですが、
とても面白いです。。。

イトーさんの斜め向かい側に立っている笹やんも、その
様子を見て、ニヤニヤ笑いっ放しです。。。

センター長の話では、今日の昼、コンサルタントが来て、
来年度、つまり来月からのカイゼン活動計画を打ち合わせ
する予定だから、当面、何をやるか決めろと言うことの
ようです。

・・・って、来月って、もう明後日じゃない!

2日後に控えた来年度の計画…、まだ何をするか決めて
ないってコト?

リーダーのイトーさんにも問題があるのかも知れませんが、
総管理者の立場だろうと思われるセンター長にも、かなり
問題あるんじゃ…?

今…?

何で今、こんな説教してるの?

センター長として、部下に説教するのはイイけど、こんな
切羽詰った時に、これじゃあ…。


そう思ったのは、僕だけじゃないと思います。

呆れ顔のバイトは多かったですし、社員の中には首を
かしげている人もいましたから…。

とにかく、散々イトーさんを攻撃した後、センター長は
イトーさんを連れて事務所の方へ歩いて行きました。

センター長の後に続くイトーさんの足取りは、重々しげで
哀愁に満ちていました。。。


午後1時…

それはそれは…、とても強烈な香水の匂いをプンプンさせ、
コンサルタントのイシダさんという40代後半の女性が
センターにやってきました。

したり顔で、何やらフンフンと独りで頷きながら、手帳を
片手に庫内を見回っているようです。

その後ろに従うのはセンター長、そしてイトーさん。。。

その様子を見て、笹やんが小声で言いました。

  ニオイのヤツ…、
  相変わらず濃厚な
  化粧してきやがって。

イシダさんは、笹やんにとって天敵のような存在かも
知れません。そのイシダさんを陰で“ニオイ”と呼んで
いるのです。

やがてイシダさんは、笹やんを含む僕らの作業場へ
近づいてきました。

一応、イシダさんたちへ目で軽く挨拶をして、僕らは黙々と
パレットに積まれている商品を納品先別のカゴ車に仕分けて
いきました。


  これネ?


  そうなんだぁ…


  変わってないねぇ…

イシダさんがセンター長に何か尋ねて、そんな言葉が
ポツリポツリと聞き取れました。

それから20分ほどで作業に区切りがつきました。その間、
イシダさんたちは、ずっと僕らの作業を監視していました。

僕らの作業が一旦終わったと見て、イシダさんが言いました。

  ハーイ、みんなお疲れ様です。
  先ほどセンター長から、商品の
  種類も増え、リニューアルも度々で、
  間違えやすいという説明を受けました。
  それはそれで大変だと思うけど、
  そういう状況だからこそ間違いのない
  作業をしていくンだという意識を
  一人一人が持ってください。
  ここの作業の管理者は笹○さん…、
  でしたよね?

と、笹やんの方へ目を向けました。

笹やんは、少し目を三角にしてイシダさんと目を合わせ
たようです。

  実はぁ…、笹○さん。
  イトーくんの作った集計によるとぉ…、
  この半年間、つまりぃ…、
  去年の10月から昨日までの間なんだけどぉ…、
  出庫間違いのミスがぁ…
  ダントツで多いのが笹○さんトコの管轄でぇ…
  月々に分けて見ても、毎月多いンでぇ…
  要するにぃ…、全然、カイゼンできてないってコト。
  わかります?
  ワタシが言いたいコト…。

イシダさんは、ワザと粘質性のある物言いで笹やんに
迫ってきました。

イシダさんの背後で、センター長もコクコクと、イシダさんの
一句一句に合わせて頷いています。

イトーさんはイトーさんで、やや硬直した表情になって
目だけを泳がせています。

笹やんは、イシダさんを、そしてセンター長、イトーさんを
順に見ていき、こう答えました。

  毎月毎月、商品が増えていくンで、
  思うように管理できないのが
  実情なんスよ。
  そろそろこの商品の納品先もわかって
  きたなぁ…と思ったら廃版になるし…。
  とにかく商品の入れ替わりや変更が
  激し過ぎて、特にオレの担当の納品先は
  毎月どころか、毎週のように入れ替わるンで…

それを聞いてイシダさんが、

  だからぁ…
  そういう状況だからこそ間違いのない作業を
  していくンだという意識を持ってください。
  特に管理者である笹○さんがしっかりしていないと
  作業するバイトの方々も意識が高まりませんから。
  でしょ?

と返しました。

笹やん、ややムッとしたような声色になり、

  オレんところは、この半年の間で
  商品の種類は増えるわ、納品先軒数は
  増えていくわ…。
  とにかく一杯一杯なんスよ。
  商品や軒数が増えても作業時間は
  これまで通り…、
  そういう状況だからこそ、バイトたちも
  キツイ思いしながら頑張ってくれてるンで…。
  誰もワザと間違えてるわけじゃないンで…。

と反論しました。
これに対してイシダさんは、ちょっとバカにしたような
笑いを浮かべて、

  ワザと間違えるとかじゃなくてぇ…、
  って言うかぁ…、大変な状況だったら
  間違えてもイイのかってコトじゃなくてぇ…、
  大変な状況をどうやって少しでも大変じゃない
  ようにするかってコトを考えるのが
  笹○さんの仕事でしょ?
  どう?

と言いました。

背後でセンター長が、笹やんを見つめながら大きく頷いて
います。

  大変じゃないようにするも何も…
  大変なモンは大変なんで…。

笹やんが、吐き捨てるように言いました。
するとイシダさんが、さらに表情を険しくして、

  だからぁ…、
  大変、大変って言ってないでぇ…、
  笹○さん独りで考えろって言ってるんじゃ
  ないから。
  センター長やイトーくんに相談しても
  イイじゃない!
  みんな仲間なんだから、みんなで考え合って
  少しでもイイ状況を作るようにしようよ!

押し付けるような言い方で笹やんに言いました。

ここで笹やんは、スゥーっと鼻から息を吸って、天井を
見つめ、無言のまま。。。

  何がどう大変な状況なのか…、
  それをちゃんと把握して、少しでも
  大変じゃなくするには何をどうすればイイのか?
  そうやって一つずつ対応していくしかないでしょ?

イシダさんが、さらに言うと…、


  出来たらやっとる…。

ポツリと笹やんが言いました。


  は…?

イシダさんは表情を一変させ、一気にトーンが下がった
ようです。


  なるようにしかならん…。

笹やんが、また呟くように言いました。


  ・・・・・・・・・・・・・・。

イシダさんは目をテンにして、声を失ったようです。。。

後ろに従者のように控えているセンター長もイトーさんも
同じように目をテンにして、呆然としています。。。


  出来たらやっとる

  なるようにしかならん

そうです!

この二つの言葉こそ、笹やんの一家言なのです!

キツイことはやらない…

その上で、なるようにやっていく…、

これが笹やんの考え方! そして生き方です!

とてもイイ加減な一家言です!

でも、まさしく笹やんの全てが凝縮された言葉なのです!


しばらく沈黙が続き、やがて笹やんと僕らは、次の作業に
入るために、ぞろぞろと商品の出庫に向かいました。

イシダさんたちは、声も出ないまま、それを見送って
いたようです。。。
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