笹やん 危機一髪

僕は日曜日だけ、冷凍食品の物流センターでバイトを
していますが、そのセンターの社員・笹やんとは、
もうすっかり気心の知れた仲になりました。

笹やんは、今年60歳になります。

でも、そんな歳とは思えないほど、考え方や生き方が
軽いのです。

具体的にどう軽いのか？

と聞かれても、うまく答えることができないのですが、
余計なコト、難しいコトを考えることなく、ただ、ただ、
自分が思ったことを口にし、行動に移し、失敗しても
悔やむわけでなく、反省するわけでなく…、

ま、そんな感じです…たぶん、わかってもらえていない
と思いますが。。。


で、今日の昼休憩のあと…、

笹やんが、センター長から指示されたらしく、草むしりを
するから手伝ってくれと、僕を含めて5人のバイトを集め、
軍手やタオル、それとゴミ袋を渡し出しました。

　　ええ～っ！
　　何でこんな真っ昼間に草むしり
　　しなきゃならないの～？

バイトの一人が口を尖らせて笹やんに抗議しました。

これに対して笹やん、

　　この時間が一番、手が空くからだろうが！
　　パパッと早くやって、パパッと終わればいいから！
　　はい！パパッと、パパッと！
　　ほれ！パパッと動け！パパッと！

と、唾を飛ばしながら、パパッと！の連発。

うわっ!!と言う感じで、2人ほどのバイトが身体を反らせて
後ずさり…。

笹やん、そんなことに構う様子も見せず、僕らを草むしりへと
いざなって行きます。

草むしりの場所というのは、センターの西側で、空地のように
なっており、草が茂りまくり、葉の茂った蔓が絡まっている
ところです。


それにしても…、

結構な広さです。

ここを6人で草むしりとは…、かなりキツイ作業になります。


　　何もきれいに全部
　　むしらなくてイイから…。
　　背丈の高い草だけ、パパッと
　　むしって行くだけでイイから。

首にタオルを巻き、軍手をはめた笹やんが先頭を歩きながら
言いました。

とりあえず手前から手当たり次第に、背丈のある草を
むしってはゴミ袋に入れていくという作業を進める
ことにしました。

それにしても、やぶ蚊と言うのでしょうか？
知らないうちに、腕のあちらこちらを刺され、
かゆくなり、イライラしてきます。


　　なんだか…、ヘビでも出てきそうな
　　ところじゃない？

　　マムシとか出てきたらヤバいぞ…。

そんな会話も聞こえてきます。

確かに、この辺りはジメジメしてて、しかも蒸し蒸しだし、
マムシが出てもおかしくない感じのところです。


　　う　わっ！
　　ひょおぅ…！！

と、これは笹やんの悲鳴…。

僕らより、もうずいぶん前へ進んでいた笹やんが、
のけ反るような体勢になりながら悲鳴をあげました。

なに？なに？

と言った感じで、僕らは笹やんの方へ近づいていきました。


すると、笹やん…、

　　ヘビ、ヘビ…。

そう言って、自分の前の茂った草を指さします。

　　わっ！！
　　ホント！いるいる！！

バイトの一人も、1ヵ所を指さして言いました。

僕も、その箇所を注意深く見てみると…。


わかりますか？

確かにヘビです！

体表が辺りの草や葉と同じ色合いになっているので、
最初はわかりにくかったのですが、慣れてくると
はっきりヘビだとわかります！

　　おいっ！気をつけろよ！
　　毒ヘビかも知れん！
　　オレ、さっき噛まれるかと
　　思った…。

笹やんは、そう言いましたが、これは毒ヘビじゃなさそうです。
放っておけば害はないだろうな…と思っていると、

　　危険だ！
　　これは危ない！！
　　よぅしッ！
　　草むしり中止！

笹やん、キッパリと言い放ちました。

センターへ戻る途中も、

　　危ない、危ない…。
　　危ない、危ない…。

まるで呪文のように繰り返し言う笹やん。

そして、センター長へ、

　　マムシのようなヘビに
　　出くわしまして…、
　　そのぉ、コレ、噛まれでもしたら
　　大変だと思い…、
　　こんな軽装備では危ないと思ったんで、
　　今日のところは…。

と語る笹やん。

他のバイトも、神妙な面持ちで頷いていました。


　　電動草刈り機か何か使って
　　やってもらえる業者に
　　頼んだ方がいいかなぁ…。

怪訝な顔をして、笹やんを睨みながらセンター長がポツリと
そう言いました。

あえて無害なヘビを毒ヘビと言うことにしておいて
草むしりから逃れた笹やんと僕ら…。

ジメついた、蒸し返すような不快な窮地から
脱することができました。

まさしくコレ、笹やん危機一髪！と言った
感じじゃないでしょうか？

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タグ：笹やん バイト