笹やん 超魔術

バイト先の冷凍食品センターでは、朝から笹やんが、
センター長に怒鳴られてました。。。

　　おめー、エエ加減にしとけよ！
　　なぁ？
　　このビアホールは欠品したら、その商品の
　　売上分のペナルティー取られるから
　　気をつけろって言っとるにもかかわらず…
　　何回も同じ商品を欠品させやがって！
　　オレの言っとること、全然聞いてねーだろ！
　　なぁ？

これは5月から取引が始まったビアホールのことでして…

詳しいことは知りませんけど、とにかく高級志向のビア
ホールだそうで、各種こだわりのビールだけでなく、食材
にもこだわり、出庫や仕分けをしていても僕のような
人間には耳慣れない品名や、いかにも高級そうな品名の
商品が多いです。

そのビアホールは、このエリアに4店舗ありますが、
中には1店舗しか取り扱っていない商品もいくつかあり、
とても効率が悪いです。

で…

笹やんが怒鳴られているのは、明日納品予定になっていた
ロブスター(マル特)を欠品させたからで…

このロブスター(マル特)ってのがまた曲者中の曲者でして、
忘れた頃に注文が入るだけじゃなく、注文時には比較的、
たくさんの量になるので欠品率がメッチャ高いのです。。。

しかも、4店舗まとまって注文してくれれば助かるのですが、
1店舗、また1店舗と、ポツリポツリ…、それも5ケースだの
多い時は10ケースだの…

センターでは5ケースほど在庫を持っているようですが、
10ケースも注文が入れば、そのペナルティー金額もかなり
大きくなるようで…

今回の場合、1店舗からの注文で8ケースでしたが、在庫は
5ケース…

3ケースの欠品。。。

　　そんなのムリじゃんねぇ！
　　だって月に1回か2回くらいしか
　　注文来ないし、10ケース注文が
来る時もあれば、1ケースだけの時も
　　あって…
　　こうなるともう…、何が何やら…

笹やんは、不貞腐れた表情で「お手上げ」と言うように、
肩をすぼめて両手を上げる仕種をしてみせました。

　　何が「何が何やら」や！
　　オーダー予測をしろって言ったにも
　　かかわらず！
　　おめー、何にもしとらんやろ！
　　これまで2ヵ月間の出庫データから
　　とりあえずでイイから適正在庫を確定して
　　対応しろって言っとるにもかかわらずぅ！！
　　な～んもしとらんやろ！
　　なぁ？
　　ほんでこういうコトになってまうやろ！

センター長は苛立ちを隠すことなく、両手を激しく振り回し
ながら笹やんを叱りつけてます。

しかし、笹やんも引き下がりません。。。

　　適正在庫を20ケースにしようとして
　　反対したのはセンター長の方じゃんねぇ！
　　今だって、オレの決めた通り20ケースの
　　在庫を確保しておけば欠品せずに
　　済んだじゃんねぇ！


　　オレは一度に20ケースは多過ぎるから、
　　入庫日を分けて10ケース単位で入庫させろと
　　言ったンや！
　　誰も反対なんかしとらんやろ！


　　入庫日を分ける意味がわからんじゃんねぇ！
　　面倒なコトせず、20ケースずつ入庫すれば
　　イイじゃんねぇ！


　　数字に弱い…っつーか、数字が読めん
　　オメーにはわからんやろなぁ…
　　在庫っつーのは、極力、量を抑えるモンや！
　　在庫金額を抑えることが経営体質に
　　つながるンやぞ！
　　なぁ？
　　ロブスター(マル特)は高額商品だって
　　コトぐらい知っとるやろ！
　　バカみたいに20ケースも取って、1ヵ月
　　寝かせたらアカンやろ！
　　そういうコトをわかるようになれよ！


　　いくら高額だって言っても、たかだか
　　10ケースで経営がどうこうなるワケ
　　ないじゃんねぇ！
　　こっちの手間とか考えてもらわないと…


　　手間…？
　　オメー、手間なんか全然掛けてへんやないかっ！
　　ロブスター(マル特)に限らず、オメーの
　　ドンブリ勘定のせいで、庫内在庫が
　　膨らんどるんやぞ！
　　少しは考えろや！


　　考えてますよ！
　　考えて在庫してますよ！


　　何言っとるんや！
　　バカみたいに入庫数量増やしとる
　　だけやないか！
　　その割に、ロブスター以外でも肝心な商品を
　　欠品させたりしやがって！
　　そこがドンブリやっちゅーの！
　　ゲホッ！ゴホゴホッ！げほほっ！！

センター長、興奮したせいか、ムセ返って仕舞いには
咳込んでしまいました。。。

その様子を、笹やんは嬉しそうな目で見ています。。。

それにしても、まぁ…

笹やんとセンター長のこうした言い合いは、既に慣れており、
一部のバイトは「センター漫才」とか「笹やん座の寸劇」と
言ってます。

僕らは作業しつつ、この寸劇をニヤニヤ笑いながら
聞いているのでした。。。

　　しかしなぁ…
　　毎月ペナルティー取られとるンやぞ…
　　どうする気や？
　　なぁ？

やや落ち着いてセンター長がコボします。

　　だいたいビアホールのくせに
　　ロブスターなんか出すのが
　　間違いじゃんねぇ！
　　ビアホールでロブスターなんか
　　食うなって言いたいじゃんねぇ！
　　ビールのつまみならエビフライで
　　上等じゃんねぇ！

話しの鉾先を急変させる笹やん…。

これにはセンター長も目をテンにして、

　　オメー…、本末転倒っつーか、
　　根本から覆すようなコト言うな！
　　そんなこと言っても始まらんやろ…
　　とにかく…

と、さすがにセンター長、ペナルティー続きで今後の取引を
心配しているようです。

すると、笹やんが突然、ポン！と手を叩き、

　　そうだ！
　　こう言うのはどうです？

パッと目を大きく開き、実に明るい表情で言いました。

その表情を見て、センター長は何かを期待したのか、
すがるような目つきで笹やんを見つめるのでした。

笹やんは、ハキハキとした声で言いました。

　　ロブスター(マル特)は注文通り
　　8ケース納品します！
　　伝票は8ケースで発行しましょう！

これに対し、センター長はやや怪訝な声色で…

　　･････って、どういう意味や？
　　現物が3ケース足りんと店舗から
　　クレームが入るだけやろ？

と、尋ねますと、笹やんは胸を張って答えました。

　　間違いなく8ケース納品しました！
　　ちゃんと確認しています！
　　間違いありません！
　　そう言い切りましょう。
　　配達したドライバーにも
　　そう言うように徹底させましょう！
　　それでも3ケース足りん…って
　　言ってきたら…

笹やん、勝ち誇ったような目をして、

　　えっ？　おかしいですね！
　　そんなコトありませんヨ…
　　8ケース納品されているはずです！
　　えっ？
　　3ケース足りないですって？
　　そんなバカな…。
　　コレって、まさかとは思いますけど
　　超魔術かも知れませんヨ！

芝居っ気たっぷりの口調で、電話の受話器を耳にあてている
ポーズまでして見せ、店舗と電話対応している演技。。。

　　おかしいですね～
　　3ケース、どこへ消えたんですかねぇ？
　　超魔術ってホントにあるんですねぇ！

この様子を見ていたセンター長、もはや、その目には
何の期待の色もありません。

ただ落胆と言いますか、失望の色だけが濃厚に見えます…。

そして、重々しく口を開きました。

　　オメー…
　　本気で言ってンじゃねーよな？

僕は、この段階で持っていたダンボール入りの商品を
落しそうになり、足をフラつかせてしまいました。そして
大声で笑っちゃいました。。。

僕だけじゃありません。周りのバイトたちは腹を抱えるほど
笑い転げているのでした。。。

笹やんは、さらに続けます。

　　ねっ？
　　あるはずの商品が忽然と
　　消えてしまった！
　　これは超魔術だ！
　　こう言い張るんスよ。
　　この手で行きましょ♪

センター長の目は、再び怒りの色を見せ始めました。

　　どアホッ!!!
　　超魔術でオメーを消してまいたいわッ！
　　こっちは真剣に心配しとるっつーのに！

さらに、笹やんに冷たく言い捨てて、センター長は事務所へ
戻って行ったのでした。

　　今回からペナルティー請求額の一部を
　　オメーの給与から補填してもらうでナ。
　　そのつもりでいろや！


　　え゛え゛ーーーっ！？

その後ろ姿を呆然と見送る笹やんでした…。

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タグ：ビアホール 超魔術 笹やん