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笹やん 恋心

今月の連休明けから、冷凍食品センターの社員である笹やんの
下で働くことになったパート女子のマエダさん。

もう半月以上経つので、かなり作業にも慣れ、僕らバイトとも
気軽に会話したり、すっかり馴染んでいるようです。

マエダさんは52歳になるそうですが、年齢より若く見え、
均整のとれた体型で健康的なイメージの女の人です。

周りの人たちから、女優の片平なぎささんに顔が似ていると
言われています。

毎週、月曜、火曜は休みで、他の曜日は朝8時半から午後5時頃
まで働きます。

子供が二人いるそうですが、二人とも社会人になり、手が
離れたので外で働こうという気になり、ここへ来たわけです。

僕も、これまで何度かマエダさんと話をしていますが、とても
明るくておおらかな印象を受けます。

仕事もテキパキと体を動かし、手早く進めていくので、周り
から好感を持たれていると思います。

実際、マエダさんは、パート女子の仲間も増え、また、
同年代の男子たちからも人気があるようです。

で…、

同年代とはちょっと異なるようですが、笹やんもまた
マエダさんを気に入っているらしく、何かと近づいてきて、
アレコレと指示しているのか、雑談しているのか…?

時には、あからさまに鼻の下を伸ばしていることもあります。

さらに、ある時には、マエダさんと笑いながら話をしている
同年代のバイト男子を、やや離れた位置でフォークリフトに
乗ったまま険しい目つきで凝視していることもあります。。。

たいてい、そのあとで笹やんは、マエダさんと話をしていた
バイト男子に、負担の掛かる作業を押しつけてみたり、
仕事が遅いなどと文句を言う…、そんなパターンがつかめて
きて、僕らバイト仲間は、苦笑したりします。。。

そして、まさに今…

僕らは、このエリアでチェーン展開しているマンガ喫茶に
納品する商品を店舗別に仕分け終わり、午後便の配送車が
積み込む場所まで、仕分けした商品を運んでいきました。

これが済めば、午前の仕事は終了です。

  ここのマンガ喫茶って、
  どの店もコロッケが
  ハンパなく出て行くのねえ!

商品を積んだカゴ車を運びながら、マエダさんが何気なく
言うと、

  これはモーニングビュッフェに
  使っているし、ランチにも
  出しているからだよ

と、近くにいた50代後半のバイト男子、ゴトーさんが答え
ました。

  そう。
  それにしてもスゴくない?
  多い店だと10ケース以上も
  出てるよ!
  これ、1ケースに何個入ってるのか
  知らないけど、そんなに
  出るもんなのねえ。

なおも驚いた様子で言うマエダさんに、ゴトーさんは、

  確か、20個入りが20パック
  入っているはずだから、
  10ケースで4000個か?
  ま…、客がよく入る店なら、
  それくらい出るだろ

と、なぜか得意気に答えるました。

  えっっ!
  4000個!?
  だって、このマンガ喫茶、
  1日おきに配送してるんでしょ?
  単純に1日で2000個も出ちゃうの?


  オレの住んでる所にもあるよ。
  たまにモーニングビュッフェ
  食べに行くけど早い客は、6時前から
  入口の前で並んで待ってるよ


  へえ~!
  そんな早くから?


  オレは7時過ぎに行くけど、
  日によって20分ぐらい待たされる
  こともあるからな。


  そんなにおいしいの?


  おいしいって言うより、
  コーヒー1杯分の値段で
  モーニング食べ放題だから、
  客がやってくるんだろ。
  このコロッケだって、ジャガイモばかりで
  肉なんて、ほとんど入っていない!
  原価の安いものばかり出しているんだろ。
  そうじゃなきゃ、やって行けないよ。


  そうよね~。
  コロッケの他に何があるの?


  ほとんど、ここから配達する
  モノばかりだよ。
  このポテトフライとか、ミニオムレツ…
  これがハッキリ言って旨くない!
  あと、そこのミックスベジタブルを
  炒めたやつとかね。


  ふうん…
  それで?
  ほかにサラダとかフルーツが
  あるわけ?
  パンはどう?おいしい?


  エッグサンドがあるけど、それは
  まあまあ食えるな…
  ロールパンはぼそぼそして
  イマイチだ。
  オレはごはんを食べることもある。


  え?
  ごはんもあるの?


  あるけど、みそ汁はない。
  それに、和風のおかずと言えば
  きゅうりのキューちゃんだけだ…。


  そう…、ちょっと寂しいね


  ああ、せめて生卵でも
  置いてくれればなぁ…

のんびりした表情でマエダさんと話をしているゴトーさん。

その彼を、少し離れた場所で険しく睨んでいる笹やん。。。

笹やんの険しい目線に全く気付くことなく、ゴトーさんは
マエダさんに話し続けます。

  ここの喫茶店のランチを食べたことは
  ないけど、オレのカミさんの話では
  今でも日替りランチを480円で
  食べさせてくれるそうだ。


  へえ!
  安いじゃない!


  カミさんは何度か食べに行ったが、
  必ずこのコロッケが出てくるそうだ。


  それでこんなに出て行くんだね。


近くにいた僕は、こんな二人の会話を聞きつつ、強烈な
敵意に満ちた光線をゴトーさんに発している笹やんの目も
チラ見しながら、内心、ヒヤヒヤしたり…

妙にわくわくしたり…。

  おいっ!
  ゴトーッ!!

ついに、離れた場所から笹やんの叫び声があがりました。

キョトンとした顔つきで、ゴトーさんは笹やんの方を見ます。
マエダさんも立ち止まって、笹やんを見ました。

僕も思わず立ち止まってしまいました。。。

  ちょっと、こっちを
  手伝ってくれ

そう言って笹やんは、ゴトーさんに空いたパレットを積み上げる
作業を命じました。

なんでオレが…?って顔をしつつも、ゴトーさんは言われたまま
パレットを持ち上げ、積み上げていきます。

普段は若い学生バイトたちにやらせるのですが、マエダさんから
引き離す目的で、笹やんがゴトーさんに命じたわけです。

近くにいた都合上、僕も手伝おうと近づくと、

  ここはゴトーにやって
  もらうから…

と、笹やんは僕を制して、事務所へ行って午後からの出庫指示書を
持って来てくれと言いました。

僕は事務所へ行き、所定の場所から出庫指示書を取り出し、再び
庫内に戻ると…、

ここの社員であるフジエさんが、マエダさんと談笑していました。

何の話をしているのか知りませんが、マエダさんは面白そうに
笑い、フジエさんの話を聞いているようでした。

そして、やはり…

少し離れた場所で、笹やんがフジエさんに強烈な光線を目から
発しているのでした。。。

  おいっ!
  フジエッ!!

またも、離れた場所から笹やんの叫び声があがりました。

キョトンとした顔つきで、フジエさんは笹やんの方を見ます。
マエダさんも笑うのを止めて、笹やんを見ました。

僕は思わず笑いそうになりましたが、我慢して様子を
見ることにしました。

  何や?笹やん。

フジエさんは何気なく笹やんに尋ねます。

マエダさんは、ちょっと不審そうな目で笹やんを見ます。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

笹やんは、フジエさんに何を言おうかと考えているようで、
ただ無言でフジエさんを見ています。

  どうしたんや?
  笹やん。

フジエさんも不審そうな顔つきになって、笹やんに尋ねます。

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

笹やんの沈黙は、しばらく続きました。

そのうちにマエダさんは、他の女子バイトたちから、昼の休憩に
行こうと声をかけられ、庫内から出ていきました。

  おい、笹やん…
  どうしたんや?

さらに不審そうな顔つきでフジエさんが尋ねますと…

  ・・・・・・・・・・・・・・メシ、
  ・・・・・食いに行くか…。

ぼそりとした口調で笹やんが言いました。

これにフジエさんは、少し身体をよろめかせたようです。。。

ここで、僕は吹き出してしまいました。

笹やんの、マエダさんへの果たせぬ恋心…とでも言うのでしょうか?

それとも、歪んだ恋心…?

ま…、人を好きになるのは悪いコトじゃありませんが…

小さな子供じゃあるまいし、イチイチ引き離そうとする笹やんの
幼すぎる行動に、素直に笑っちゃいました。。。
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