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笹やん 悲喜こもごも

日に日に、カイゼン活動に対するヤル気をなくしていることが
ハッキリ見て取れるイトーさん。

彼は、僕のバイト先である冷凍食品センターの社員で庫内作業の
ミスをなくすことを目的としたカイゼン活動のリーダーでも
あります。

リーダーに任命されて、もう8ヵ月になるでしょうか。
イトーさんなりに頑張ってきたと思いますが、哀しいことに
成果が表れて来ない!

周りの社員、バイトたちも決して協力的な態度ではない!

コンサルタントやセンター長からは檄を飛ばされ、尻を叩かれ…。

やがて孤立してきたような感のあるイトーさん。。。

  こんなコトやってても、
  な~んもならない…。

と思ったことでしょう。

そんなイトーさんを見て、同じくここの社員である笹やんが
元気づけようと…、じゃなくて、さらにヤル気を削ごうと、
この頃、イトーさんに接触しては、カイゼン活動がいかに
無意味でムダな活動であるかをささやき続けているようです。

今では、イトーさんも、すっかり笹やんを拠り所としている
ようで、庫内で商品を小分けしている笹やんの近くにフラリと
やってきました。

僕は少し離れた位置にいたので、何を話しているのか
よく聞き取れませんでしたが、互いにニヤニヤ笑いながら
話している様子を見ると、やはりカイゼン活動について、
どうやって成果をあげるか…、じゃなくて、どうやって
誤魔化し、成果を改ざんするか…、みたいなことを話して
いると思います。。。

そんな二人の後方から、センター長が現われ、こちらに向かって
歩いてきました。

それには気づかず、二人はまだニヤニヤ笑いながら話を続けて
います。

  イトォーーーッ!!

背後から大声でセンター長に呼ばれたイトーさん、ガクッ!と
膝を折るようによろめきつつ、ビックリした顔つきで振り返り
ました。

  おいっ!オマエ、先月分の活動報告書、
  9時までにオレの机の上に置いとけって
  言ったにも拘らず、そんなところで
  ナニやっとるんやっ!

センター長、明らかに怒ってます。。。

  すいません…、
  まだ、ちょっとまとまらなくて、
  今、ちょっと…、
  笹○さんにアドバイスしてもらおうと
  思って…、ちょっと…

イトーさんは明らかに動揺してます。。。
彼は動揺するとすぐに目を泳がせる癖があり、さっそく
キョロキョロと素晴らしく速い動きで目を泳がせています。

センター長は、笹やんを一瞥したものの、またイトーさんを
見て、

  まとめはオレが内容をチェックしてから
  改めて作成するって言っとるにも拘らず
  何が笹○のアドバイスや!?
  今日の午前中にコンサルへファックスで
  送らなアカンから9時には提出しろって
  言っとるにも拘らず、勝手にフラフラするなヨ!

と大声を響かせます。

センター長の得意技、“にも拘らず”攻撃を続けざまに食らった
イトーさん、顔をこわばらせ、口をパクパクさせながら、

  キョロキョロ…、キョロキョロキョロ…、
  きょろきょろきょろ…、
  キョロキョロキョロ、キョロキョロキョロ
     キョロキョロキョロキョロ…、
        きょろきょろ、きょろきょろ…、
  キョロキョロ、キョロキョロキョロキョロ…、
     きょろきょろ…、きょろきょろきょろきょろ、
  キョロキョロキョロキョロキョロキョロ
     きょろきょろきょろきょろ…、きょろ、きょろ
        キョロキョロキョロキョロキョロキョロ…
  きょろきょろ…、

秒速3往復、いや、5往復ほどの超高速で目を左右に泳がせています!

  す、すげぇな!
  いつ見ても…。

イトーさんの目の泳ぎは何度見ても感動します。
これ…、立派な芸です!

  イトーさん、もしかして
  テレビ出られるかも…。

僕がそんなコト思いながら、ふと笹やんを見ると…、

笹やんは、イトーさんに同情する様子も見せず、センター長に
同調する顔つきでもなければ、反発的な顔つきでもなく…、

ただニヤ~~っと笑いながら、このやり取りを見てるだけ…。

イトーさんとしては、目を泳がせながらも時折、笹やんの方を
見て、「助けてくれ!」目線を何度か送っているみたいですが、
そんな目線を受けても、笹やんはニヤニヤ笑いで応えるのみ…。


  助けてくださいっ!
  笹○さん!!

必死に目で訴えるイトーさん。

さらりと無視する笹やん。

  よし!行くぞ!
  時間までに報告書送らないと
  コンサルからオレが叱られるやろ…

そう言って、イトーさんを事務所へ連れて行くセンター長。

コンサルからオレが叱られるやろ…?

このセンター長の一言って…、

予定通りに報告書を作成することが目的ではなく、コンサルから
叱られるのを避けるため、とにかく時間に間に合わせろみたいな
言い方に聞こえたんですが…、

保身か…!?

たぶん、イトーさんもそう思ったかも知れません。

センター長の後に続いて歩きながらも、一度、笹やんの方へ
振り返ったイトーさん…、

ちょっと哀れかも。。。

しかし、笹やんは…、

ニヤ~~っと笑って見送るだけ…。

このシーン、イトーさんだけに、悲哀のスポットが当たってる
状態で…、こうなると、もう…、喜劇ですか?
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