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笹やん 恐怖症

午後3時を過ぎた頃になって、ようやく一息つくことが
出来るようになった…って感じで、今日は何だか朝から
出庫する商品が多くて、バタバタしていました。

  あ~あ…、
  何か疲れちゃったな~
  さぁ!
  休憩しよっ!

バイト先の冷凍食品センターの社員、笹やんがそう言ったので、
僕らは、笹やんの後について、事務所の前にある自販機に
向かって歩き出しました。

みんな、それぞれ、自販機から飲みたいモノを買って飲んで
いると、センター長がやって来て、

  おう、笹○!
  休憩の後でいいから、庫内の照明が
  切れてるようなんで、電球を取り替えて
  おいてくれよ!

と笹やんに言いました。

そう言われてみると確かに…、

僕も気になっていましたけど、庫内のあちらこちらで照明が
切れていて、商品を出庫する際に、年配の人なんかは、出庫表を
見ながら目をこすって、

  おいおい!
  何て書いてあるのか
  見えねーぞ!
  もうちょっと明るくしろよっ!

なんてイラつきながら大声で叫んでいるのを聞いたことも
あります。

センター長はさらに、

  フジエにも言ってあるから、バイトにも
  手伝ってもらって手分けしてやってくれよ。

と、笹やんに言いました。

笹やんは、プカ~~っとタバコの煙を吐きながら、

  あい、わかりました。

と返事をして、僕の方を見ました。

おまえ、手伝えな…、と笹やんの目が言っているのが
分かったので、僕も目で答えました。


さて…、

休憩後、庫内に戻り、社員のフジエさんも加わって、
さぁ、始めるか!ということになり、笹やんが
ダンボール箱に入っている電球を取り出して、

  じゃあ、オレが東側から取り替えて
  いくから、フジエは西側から
  始めてくれ。

取り出した電球を別のダンボール箱に半分ほど入れながら
言いました。

ここのセンターは、決して新しいとは言えない建物で
照明もLEDではなく、普通の電球です。

一部、蛍光灯の箇所もありますが、ほとんど電球です。

天井がとても高いため、脚立を使って取り替えることが出来ず、
フォークリフトでパレットを持ち上げ、そのパレットに乗って、
天井に取り付けられているキレた電球を外し、新しいのと
取り替える作業をしていくわけです。

しかし、そうやってフォークリフトを使って取り替えられる
高さの天井ばかりではなく、もっと高い位置にある天井箇所
も多く、

  リフトで届くところだけやって行こう。
  届かないところは専門の業者に
  頼まなくちゃ…、オレたちじゃムリだ。

笹やんが言いました。

リフトを操作する人、パレットに乗って取り換え作業をする人、
二人一組の作業になりますが、そのほか、アシスタント的に
もう一人、リフトの横で待機している役目の人を加えて
三人一組体制で進めることになりました。

フォークリフトを操作できるのは、笹やんとフジエさんの
二人で、今、集められているバイトは僕を含め、免許を持って
いないので、パレットに乗る係とアシスタント役のどちらかを
担当することになります。

僕とハヤカワさんと言う24、25歳ぐらいのバイトが笹やんチーム、
ヤノさんとナイトウさんがフジエさんチームになりました。

バイトのナイトウさんは、無口・無表情・無関心の3無主義を
貫いている人で、仕事はそこそこ出来る人ですが、笹やんは、
このナイトウさんが苦手らしく…、って言うか、何度も笹やんは
ナイトウさんを叱り飛ばしたり、怒鳴りつけたりしたことも
あり、この二人の間には目に見えない深い溝があるようです。

そういうわけで、ナイトウさんがフジエさんチームへ行くのは
理に叶っていると言えます。

で…、ハヤカワさんですが…、

この人もどちらかと言えば無口な方で、それでも顔つきは
穏やかで、ナイトウさんのように冷たい仮面のような表情は
見せません。

ただ、仕事はあまり出来ない人みたいです。。。

本人はちゃんとやってるつもりらしいですが、やってることが
ズレてたり、思いっきり間違ってたりで、僕も尻拭いをさせ
られたことがあります。

そんなハヤカワさんと組むことになり、僕は少しだけ
嫌な予感がしました…。

そんな時、遠くからフジエさんの、笹やんを呼んでいる声が
聞こえてきました。

やがて、リフトに乗って近づいてきて、

  お~い、笹やん、
  わりーけど、この電球、
  全部キレてるみたいだ…。

そう言って、ダンボール箱に入っている電球を指差しました。

  えっ!?
  全部?

笹やんがそう言うと、バイトのヤノさんが、

  今、付け替えた3個が、3個とも
  点かなかったンで、たぶん、コレ…、
  新品じゃなく、キレた電球ばかりじゃ
  ないかと…

と言いました。

どうやら、笹やんは、既にキレている使い物にならなくなった
電球を持ってきたようです。

  ったく、も~~~!
  まぎらわしいなぁ!
  誰だぁ!?
  使いモンにならんものを
  いつまでも置いとくなよなぁ!

そう言って、笹やんは持ってきた電球をひとつのダンボール箱に
入れて、事務所の方へ歩いて行きました。

この段階で、僕らは何だか、とても疲れてきました…。

さっそく嫌な予感が当たったようです。

虚脱感に包まれ、僕らは4、5分ほど、ボ~っと庫内で突っ立って
いると笹やんが戻ってきました。

「パルックボールA60形」と書かれた新しそうなダンボール箱を
抱えて、

  わりぃわりぃ…
  これは間違いなく新品だ!

そう言って、別のダンボール箱に半分ほど移し、それをフジエさん
に渡し、作業再開です。

僕ら、笹やんチームも笹やん操るフォークリフトの後ろについて
歩き出しました。

  よし!
  あそこから始めるか。
  あそこが1つ、少し奥の方も
  1つキレてるだろ。
  よし!
  ハヤカワ…、おまえ、パレットに
  乗って、取り替えろ!

笹やんがハヤカワさんに指示しました。

すると、ハヤカワさんはニヤついた顔で、モジモジしながら、

  あの…、スンマセン…。
  僕、高所恐怖症で…

笹やんに、ボソリとそんなことを言いました。

  ナニぃ?!
  高所…? 高所恐怖症だぁ?
  ホントか?おまえ…

いぶかしそうにハヤカワさんを睨みつける笹やん。

それじゃ、仕様がないから…と、僕にパレットに乗って
取り替えるよう指示しました。

僕は、本業の仕事で高い所で作業することもあるので、別に
なんともありません。

それにしても、こうして天井を見ていると、随分と汚れて
いることが分かります。

とても埃っぽくて、電球を取り替えている間、大きな埃が
顔に降り掛かってきました。

  たまらんナ…、こりゃ…

そう思いながら、取り換えを終え、笹やんに合図をしました。

ス──────っとパレットが下降し、お腹の下あたりも
ス──────っとする、アノ感覚…。

何だか、懐かしい感覚です。

子供の頃、大きなすべり台で感じた…、それと親父が運転する
車に乗って、下り坂を走行していた時にも感じた…、アノ感覚…。

ま…、それはイイとしまして、電球取り替え作業は思ったほど
時間が掛からず、30分ほどで終了しました。

僕が取り替えた電球は、合計5個。

フジエさんチームではナイトウさんが取り替え、こちらが4個。

ほかにもキレている箇所がいくつかあるのですが、リフトでも
届かない高さなので、僕らでは対処できません。

それじゃ、作業終了!ってことで、少し休憩するかと笹やんが
言い、僕らは事務所前の自販機に向かって行きました。

途中、通路を歩いていると、笹やんが立ち止まり、

  おう!
  ここもキレてるな!
  おい、ハヤカワ、
  おまえ、ここの電球、
  取り替えておけ!

通路の天井を指差して、そう言いました。

見れば、確かに電球がひとつキレています。

  ええ~?

ハヤカワさんが尻込みするような態度を見せました。

  何だ!?
  ここなら脚立でも使って、
  一人で取り替えられるだろ!
  これぐらいなら高所恐怖症でも
  大丈夫だろ!?

笹やんが言う通り、通路の天井は、一般家屋の天井の高さと
変わりませんから、脚立に上って簡単に取り替えられると思い
ます。

近くに脚立があり、ヤノさんが気を利かせて、それを持って
来てくれました。

シブシブと言った態度をあからさまに見せながら、ハヤカワさんは
ボソリとした口調で、

  感電…、
  しませんかねぇ…?

と言うので、僕らは苦笑してしまいました。

ニヤニヤしながら笹やんが、

  感電!?
  おまえみたいなヤツは感電して
  ショック与えた方がイイかも知れんナ!

なんて言ってます。。。

こうして、みんなに見守られつつ、ゆっくりとハヤカワさんは
脚立に上り、これまたゆっくりとキレた電球を取り外し、
これまた気の利くヤノさんが、それを受け取るとともに新品を
手渡しました。

ハヤカワさんは、マジで高所恐怖症なのか、それともマジで
感電を恐れているのか、足がぶるぶる震えているように見えます。。。

新品の電球を天井の取り付け位置に差し込み、ゆっくりと
回し出したハヤカワさん…、

そのうち、ピカッ!と点灯した途端、

  ビリッ!!!

大声で笹やんが叫びました。

その声にビックリしたのかハヤカワさんは、ガタタッ!と
脚立から足を踏み外し、一段下の足場に、左ひざをしたたかに
打ちつけました!

脚立に上ったまま、涙目になって笹やんを見つめるハヤカワさんを
見て、

  ありゃ、痛かったろーなぁ…

と思ったのは、僕だけじゃないと思います。

笹やんもきっと、ハヤカワさんの左ひざが次第にズキズキして
くるのを分かっていると思いますが、さも面白そうに笑っている
だけです。。。

そんなハヤカワさん…、

この先、高所恐怖症に加え、笹やん恐怖症になることでしょう…。
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