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笹やん 肩ならし

午後3時の休憩が終わり、作業場へ戻る途中、バイト先の冷凍
食品センターの最年長社員であり、超問題社員である笹やんが、
センター長に呼ばれて、事務所へ入っていきました。

  あ…、笹やん、
  また何かやらかしたナ…。

僕らバイトは、暗黙のうちにそんなコトを思い…

暗黙のうちに何故だかテンションが上がっていくのでした。。。

  きっとこの先、何か
  面白いモノが見られる。

僕らは、ワクワクしながら作業場へ向かうのでした。。。

作業場内の準備が整い、僕は4時から始まる出庫・仕分け作業の
帳票を取りに、事務所へ行ってみると…

笹やんは、デスクトップパソコンに向かって、何やらたどたどしく
キーを叩いているようで、背後にセンター長が立って、パソコン
画面を眺めているようでした。

時折、センター長が、笹やんに指示を出しているみたいですが、
どうも笹やんは、その指示を聞き入れていない様子で…

帳票が出揃うまで、もう少し時間が掛かりそうなので、僕は
そのまま二人の様子を、少し離れた位置から眺めていました。

  だから、オマエ…
  数字を入力する時は
  テンキー使えっつーの!

イラついた声で、センター長が笹やんに言ってます。。。

  そんなオマエ…
  上に並んでるキーじゃなくて…

  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・・

  右側にあるやろ!
  その電卓みたいに数字が
  並んでるやろ!

  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・・

  それをテンキーって言うんや!

  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・・

  だから、それ使った方が
  早いっつーの!

  ・・・・・・・・・
  ・・・・・・・

次第に笹やんは、イライラしてきたみたいで…

左右の人差し指で、たどたどしくキーを叩いていましたが、
その動きをピタリと止めて、

  って言うか、なんでオレ、
  こんなことしなきゃ
  いけないんスか?
  現場が忙しいんスよ!

笹やんは、センター長の方へ振り返って、苛立ちを隠さぬ
顔つきで言いました。

  現場仕事はバイトで充分
  間に合うやろ!
  これからオマエは、こうして
  データを入力する仕事も覚えろ。

センター長は、笹やんに押し被せるように言いました。

  こんなバカらしいこと
  やってらンないじゃんねー!

  バカらしいとは何だ!
  これを入力せんと売上の計上が
  できんのやゾ!

と、ここで帳票が全て揃ったので、僕は事務所を出て行く
ことにしました。。

作業を始めて40分ほど経ってから、追加の仕分け票が出たと
連絡が入り、再び僕は事務所へ取りに行きました。

事務所では…

笹やんがパソコンと格闘中。。。

  カチャ…
       カチャ…

  カチャ…

   カチッ…

キーを叩く音がたどたどしく、何だか、聞いていると息苦しく
なってきそうで・・

帳票を手に、僕は静かに事務所を出ようとしたところ…

笹やんと目が合ってしまいました…。

しまった!

僕は心の中で叫びました。。。

ニコ~~~~~っと笑いながら、笹やんは、僕に手招きを
するのでした。。

とりあえず帳票を作業場まで持って行かなければならないからと、
笹やんの執拗な手招きを逃れ、僕は一旦、事務所を出て、10分ほど
作業してから、またまた事務所へ…

で…

笹やんが入力している内容を確認してみると…

それは不定貫商品の商品コードと、各品の重量を打ち込んで
いるのでした。

数字を打ち込むだけの単調な作業です。

それを笹やんは、先ほどから左右の人差し指を駆使して、文字キー
上段に並んだ横一列の数字キーを、カチャ…、カチャ…と叩いて
いるのでした。

  だからテンキー使えっつーの!

僕は、心の中でセンター長と同じ言葉を吐きました。

  おい、わりぃけど、
  代わりに打っといてくれ。。

笹やんは、自分の肩を揉みながら、僕に言いました。

  ええっ!?
  いやぁ、それは…

  わりぃけど、頼むよ…
  オレ、こういうの肩が
  凝っちゃって・・。

椅子から立ち上がり、笹やんは大袈裟に両肩を回したり、上下に
動かして見せるのでした。

  だから、やっぱり…
  テンキー使ってやれっつーの!

心の中では、こう叫んでますが、

  じゃあ、ちょっとだけ…
  まだ仕分け作業、残ってるんで…

そう言って、僕は少し興味が出てきたので、椅子に腰掛け、
入力していきました。

  豚バラブロックは、2355-0188と…
  で、9.5Kgに10.2Kgか…
  こっちのは10.6Kgね。。

カチカチカチッ…、カチャ、カチカチッ・・

  ええっと、次が豚ヒレブロックか、
  商品コードが2355-0210と…
  2.2Kg、2.5Kg…

これら豚バラ、豚ヒレは、笹やんの担当しているビアホールへ
納品している商品で、僕も馴染みがあるのですが…

  カジキマグロ…?
  こんなのあったっけ?
  カツオ半身…、
  ちょっと待てヨ。。。

このほか、ラム骨付きとか、ロースト用丸鶏とか…

  あれぇ!?
  こんな商品ありましたっけ?
  ビアホールにカツオとか
  出たことありましたっけ?

思わず僕は声に出して、笹やんに尋ねてみました。

  カツオ…?

笹やんは、別に気にもならないような口調で、画面に顔を
近づけます。

  ほら、こんなロースト用丸鶏だって、
  知らないですよね?

僕が言うと、

  コレって、イトーが担当してる
  ホテルへ納めるヤツじゃんねー。
  こっちのカジキマグロも…。

笹やんが、ようやく真剣な目つきになって言いました。

  カツオの半身ってのは、ノダの
  担当先の和食屋の商品じゃねーか!

どうやら笹やんは、センター長から、ここのセンターで
取り扱っている全ての不定貫商品について入力を任されて
しまったようで…

  っつーか、もっと早よ気づけヨ!

と、これは僕の心の中の叫び…

そこへセンター長が事務所に入って来て、

  おう、進んどるか?

そう笹やんに声を掛けました。

  進んどるも何も…
  これはどう言うコトです?
  なんでオレが、他の社員の
  不定貫商品まで入力しなきゃ
  ならんのですか?

怪訝な顔つきでセンター長に尋ねる笹やん。。

センター長は、悪びれた様子もなく、

  このセンターでの不定貫の取扱量は
  増加の一途だ。
  これまでオレが一人で処理していたが、
  もう限界だ。
  これからはオマエにやってもらう。

すらりと言ってのけました。

  いやいやいや…
  そんなのムリでしょ!

  全部とは言わん。
  半分はやってもらうつもりや。

  っつーか、なんでオレなんスか?

  バイトの頭数が充分に揃っとるし、
  ベテランバイトも多いからや。
  オマエが現場におらんでも
  回せるやろ。

  そんなことでオレに振らんでください。
  こういうのはムリですから!

  まあ、今日のは肩ならしだと思ってナ…
  それに毎日の仕事じゃない。
  多くても週に2回だ。

  何が肩ならしです!
  ふざけんでくださいッ!

  慣れればどうってコトはない。
  ま、次もガンバッテくれや。。

  そんな肩ならし要らんです!
  ふざけんでくださいッ!

  そう言うな!
  量が増えてきたんだから、
  仕方がないやろ。

  ふざけんでくださいッ!

徹底した抵抗姿勢を示す笹やん。。。

とは言え、本人が気づかぬまま肩ならしさせられて
いるわけで…

僕は腹の中で、腹がよじれるほど笑い、そして静かに
事務所を出て行くのでした。。。
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