________________________________________________________________________

笹やん 向かい風

バイト先の冷凍食品センターのフォークリフト専任バイトで
あるカワサキさん、エサキさんが、目を引きつらせて笹やんの
元へやってきました。

  ねえ、ちょっと!
  イイ加減にしてよ!
  笹やん!

カワサキさんもエサキさんも、よく似た歳で、36か37歳らしい
です。

ここでのバイトは、もう10年ほどになり、立派な古株です。

そのため、笹やんだけでなく、他の社員にもタメ口を使って
話しています。

カワサキさんに続いて、エサキさんも、

  勝手に別商品のロケーションに
  入庫させないでよ!
  どうしてくれンのよ!?

と、笹やんに強い口調で迫ります。

これに対し、笹やん…

ニタ~~っと笑っているだけ…。

この笑い顔が、カワサキさんたちを余計、怒らせていることに
笹やんは気づいていないようで…

  何がおかしいんだよ!
  ふざけんなよっ!

  今から勝手に入庫した商品、
  移動させてヨ!
  こっちの身にもなってヨ!
  仕事が進まないでしょ!

二人の顔が、怒りで赤らんできています。。。

どうやら…、ま、今回に始まったコトじゃないのですが…

笹やんは、カワサキさんたちに無断で、自分が発注した商品を
勝手に他商品の格納ロケーションへ入庫させたみたいです。

フォークリフト専任の二人は、終日、商品の入庫、出庫、それも
大量に入出庫しているだけでなく、格納するロケーション管理も
行っています。

なので、勝手に異なるロケーションへ商品を納められると、
仕事の手が止まってしまうのです。

一方の笹やんは、規模の大きな納品先をいくつも担当しており、
納品先軒数も、そして、商品の種類や数量も膨大で、そのため
ロケーションの変更、追加が頻繁です。

それで、まぁ…

仕方がない…ってコトで、なあなあで済まされている部分が
多々あるわけですが…

その都度、リフト専任者は尻拭いをさせられているわけで…

笹やんの場合、ひどい時には今回のように、何の連絡もせず、
勝手にロケーションを無視して入庫させたり、無断で変更
したりするので、これがカワサキさんたちにしてみれば、

  ふざけんなっ!
  イイ加減にしろ!

ってコトになるのです。。。

  さあ、今から勝手に入れた商品を
  どっかへ移動させてヨ!

  そうだよ!
  倉庫の中、見てみろ。
  めちゃくちゃになっとるゾ!

文句を言う二人に対し、笹やんも頭に血が上ったのか、

  仕方ないやろ!
  今週からの新規商品なんや!
  明後日までに全部出庫するから
  文句言うな!

声を荒げます。

  新規とか、全部出庫するからって言う
  問題じゃないよね。
  それぞれの商品には、それぞれ決まった
  ロケーションが設定されるってのが基本の
  ルールだよね。
  それを無視して勝手なことされちゃ
  困るってコトだよね。

  そうだよ。
  ちゃんと事前に連絡くれれば、こっちも
  対応できたんだよ。

今度は冷静な口調になって、笹やんに諭すように言う二人。

この冷静口調に腹を立てた様子の笹やん…

  それができれば苦労せんわっ!
  こっちは忙しくて、それどころじゃ
  ないんだ!
  オマエらに、この忙しさがわかるか!

早くも暴言、失言を吐き出します。。。

やや勝ち誇ったような顔になってカワサキさんが攻撃します。

  こっちだって忙しいんだよ、笹やん。
  その上、勝手なことされちゃ、
  ますます忙しくなるんだよ、笹やん。

傍らでエサキさんが、笹やんに冷たい目線を送りつつ、無言で
何度も頷いています。

  くっ・・・・・・

今や、怒りで顔を赤らめているのは笹やんの方です。

言い返す言葉が見つからないのか、ちょっと唸って、しばらく
黙っていましたが、

  うるせー!
  オマエらの忙しさとは訳が違うわっ!

むなしく意味不明な暴言を吐く笹やん…。

  言わせてもらうけど、笹やん…
  笹やんがルール通りにやってくれたら、
  こっちだけじゃなく、笹やん自身も、
  今みたいに忙しくはなくなるんじゃないの?
  だってそうでしょ?
  決められたロケーションへ決められた商品を
  入庫させるだけで、笹やん自身も在庫管理や
  出庫作業しやすくなるはずだよ。
  そう思わない?

もはや完全に、上から目線で言われている笹やん…

口惜しさを全面に浮かべ、再び…

  うるせー!

むなしい抵抗…。


  あっ、丁度イイところへ…
  ねえ、タカハシさん。
  タカハシさんからも笹やんに
  ひと言、言ってやってヨ

カワサキさんが、通り掛かったタカハシさんへ声を掛けました。

タカハシさんは、リフト専任業務を管理する社員です。

彼は、カワサキさんたちより年齢が若いせいか、社員であり、
カワサキさんたちを管理、指導する立場でありながら、いつも
カワサキさんたちに指図されているようです。。。

タカハシさんの性格が大人しいことも原因でしょうけど…。

で…

声を掛けられたタカハシさん…

立ち止まって、こちらの方へ顔を向けたものの…

  いきなりひと言って
  言われてもなぁ…

声は出しませんが、ありありと表情に出てます…。

まさに困惑しきった顔。。

  今に始まったコトじゃないけど、
  笹やんが、また勝手に自分が発注した
  商品を、別の商品のロケーションに
  入れちゃったンだよ!
  ったく、何とか言ってやってよ!

エサキさんが、大声でタカハシさんに説明します。

それを聞いても、タカハシさんは、太い眉毛を「八」の字にして、
困惑顔のまま…

  何とかって言われてもなぁ…

って感じです。

  だいたい笹やんは、勝手に発注して
  入庫させるだけじゃなく、バカみたいに
  大量に入庫させるから、格納ロケーションが
  追いつかなくなるんだよ!
  今に始まったコトじゃないけど…。

突っ立ったままで何も言わないタカハシさんを尻目に、エサキさんは
笹やんを攻撃します。

「今に始まったコトじゃないけど…」のセリフを、繰り返すことに
より、笹やんの心を鋭くえぐっているようです。。。

そして、笹やんは…

心をえぐられ、唇を歪めつつ、反撃体勢に出ます。

  バカじゃないじゃんねー!
  バカとは何だ、このバカ!

・・・・・以上、笹やんの反撃。。

  バカみたいな量だよ!
  ほぼ毎回!
  一度に入庫させようとしないで、分割して
  入庫させるとか、もっと考えようよぉ!
  例えばさぁ、発注ロットが100ケースだったら、
  100ケースずつ、毎日入庫させたらイイじゃない?
  それを一度に300ケースも入庫させるから…
  そろそろ考えてくれない?

今度はカワサキさんが攻撃します。

  一度の発注を3回に分けるほど、
  オレはヒマじゃない!
  忙しいんだ!

改めて反撃を試みる笹やん。。。

  ヒマとか忙しいじゃなくて…
  さっきから言ってるけど、ロケーションが
  追いつかないの!
  倉庫がイッパイで、入り切らない状態に
  なっちゃうってコトよ!

半ば呆れた口調で言うカワサキさん。そして…

  ねえ、タカハシさん!
  専任担当として、笹やんにガツンと
  言ってやってヨ!

再度、タカハシさんへ振ります。

と、ここでようやくタカハシさん、困惑顔のまま口を開きました。

  確かに、庫内の格納スペースには
  限界があり、キャパを超えてしまえば
  物流面だけでなく、収支面でも大きな
  リスクになりますから。。

さすがタカハシさん。在庫過多による入出庫の手間、在庫管理など
物流だけでなく、過剰在庫による経営収支上の問題点にも触れて、
笹やんを説得しようと言うわけでしょう。

が…

何を思ったのか笹やん…、ここでいきなり顔をほころばせ、

  何や、タカハシ…
  オマエ、その顔でどこのキャバクラへ
  通い詰めとるンや?
  収支のリスク…って、金欠状態ってコトか?


  ・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・。。

これはタカハシさんだけでなく、カワサキさん、エサキさん、
さらに、周りにいた僕らバイトも初めは意味がわからず、
ただ茫然として聞いていましたが…

  キャバクラじゃないですよ。
  キャパですって、キャパシティー。。
  倉庫の中身っていいますか、
  格納できる許容量ですよ。。

苦笑いをしながら、タカハシさんが言いました。

笹やんは、本当にキャパの意味を知らなかったのか、それとも
知っていて、わざとキャバクラとボケたのか…?

そこのところは不明ですが。。。


  タカハシの言う通りや!

ここでセンター長まで合流してしまいました。

  前々から在庫管理の精度を上げろと
  言っとるにもかかわらず、オマエは…

センター長は、笹やんの後ろの方からやってきて、そう言いました。

これで笹やんは、前方にタカハシさんら専任3名、後方にセンター長
という隊形を相手にしなければならなくなりました。。。

とりあえず、センター長の方へ向きを変える笹やん。

  精度を上げるために、前年の出荷データを
  参考にしてみろと言っとるにもかかわらず、
  オマエ、な~んもやっとらんやろ!?
  なぁ?
  つい先日も、本社から指示があったやろ!
  商品のアイテムが増えているから、専任と
  連携して適正在庫を把握して格納スペースを
  有効に使えって!
  にもかかわらず!

センター長の必殺技“にもかかわらず”攻撃の三連発!

まともに攻撃を食らった笹やん、反撃できません。。。

  そもそもやなぁ…
  専任が発注する商品以外の入庫に関しては、
  それぞれ発注した社員が、専任へ事前に
  連絡するって決まりがあるやろ!
  ってか、オマエ、それも知らんみたいやなぁ?

センター長の攻撃は続きます。

  今後は発注する前に、専任へ品名、数量、
  入庫日を連絡して、それを専任が
  認めた上でないと発注できないような
  システムに変更するでな!

これには笹やん、目を剥いて抵抗しました。

  はぁーっ!?
  そんな面倒なコトできるわけ
  ないじゃんねーっ!


  何が面倒や!
  今まで面倒ばっか掛けやがって!
  っつーか、他の社員はみんな、
  それらのことを事前に連絡しとるンやぞ!
  なぁ?
  オマエだけやぞ!
  勝手なコトばかりしとるのは!


  え゛え ぇ──────っ!?

どうやら笹やんは、この先、勝手に発注したり、入庫させたり
出来なくなりそうで…

この笹やんの様子を見て、満足気な笑みを浮かべる専任3名。。

彼らには、一気にフォローの風が吹いてきたわけです。

一方、笹やんにとっては思いっ切り向かい風。。。

びゅうびゅうと前面から暴風が吹き荒れてきたわけです。

その向かい風に、笹やんは、唇をポカンと開き、目を虚ろにし、
背を丸めて立ち尽くすのでした…。
にほんブログ村 オヤジ日記ブログへ
にほんブログ村




nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 2

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました