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笹やん 御曹司

バイト先の冷凍食品センターの社員、笹やんは福岡県
北九州市の生まれだそうで、時々、自分のことを、

  オレもそうだが、北九州の男は
  肌は細いが、気は荒い!

って言います。

ホントかどうか知りませんけど、確かに見る限りでは、
案外、笹やんは歳の割に肌はキメが細かそうです。

ま…、62か63歳になる笹やんの肌が細かろうが粗かろうが、
どうでもイイことなんですが…。

だけど、気の荒さは周りも認めています。

荒い…って言うか、粗い…?

ぶっちゃけ、雑…ですね。

  おいっ!
  これ、向こうにやっとけ!

そう言って、今日もパレットの上に積み上げた商品を、
目が合ったバイトに向って、移動させるようにと指示
するのですが…

  ムリです!重くて…
  だったら、パレットごとリフトで
  向こうへ持って行ってください

指示されたバイトが、そう返すと、

  ったく、オメーは…

とか言って、舌打ちしながらフォークリフトで商品が
積んであるパレットをすくい上げようとするのですが、

  あっ…!
  ああぁぁ~~っ!

適当にリフトを操作したせいなのか、リフトのツメの先を
商品にブッ刺してしまい、さらに、停止させずにそのまま
前進するので、

  ああぁぁ~~っ!

パレット上の商品が、大きな音を立てて崩れてしまいます。

庫内で発生している商品破損件数の約半数は、実を言うと
笹やんの仕業であるとの噂も…

それでも笹やんは、全く気にする様子も見せず…

ケロッとした顔で作業をしているものですから…

気は荒い…というより、粗い…って言った方が当たって
るんでしょうねぇ~。。。

さあ、そんな笹やんが昼過ぎになって…

  ナイトーっ!
  どこ行った!?

バイトのナイトーさんを探しているようです。

  おーい!
  ナイト─────っ!

どうやらナイトーさんが、得意先へ納める商品の出庫数量を
間違えたようで、それを注意しようと笹やんが探している
わけですが…

このナイトーさんって人は、ほとんど誰とも話をすること
なく、その存在感は極めて希薄で…

ここでのバイト歴は長い方だと思うのですが、現在に至るまで
ナイトーさんが親しげに談笑したり、心を開いて他人と接する
姿を見たことのある人は誰もいないと言います。。。

何とも不思議な…、何だか謎に包まれたような男…

それがナイトーさんです。

  ナイト─────っ!
  どこ行ったぁ───っ!
  出て来───いっ!!

ナイトーさんの仕事ぶりは、地道にコツコツやる…って感じで
目覚ましいほどの動きはないけど、サボってるわけではなく、
自分のペースを守りつつ、確実に作業を進めている…って
感じですが…

時々、ミスをするみたいで…

そうなると笹やんから罵声を浴びることになるんですが、
そんな時のナイトーさんは、無表情・無反応・無感情の
“3無主義”を貫き通しているようで…

  どーゆー神経しとるんや?
  オメーは!?
  何とか言えっ!!

その度に笹やんが口にするセリフです。。。

  ナイト─────っ!
    ナイト─────っ!
  おい、ナイトー見なかったか?

探し回る笹やん。。。

  ここで~す。
  ココにいま~す☆

ちょっと離れた所から、若いバイト男子が笹やんに
答えました。

そっちの方を見ると、確かに無表情のまま、何か商品を
手にして、こちらを見つめているナイトーさんがいます。。。

  おいっ!ナイトー!
  オレが呼んでるの聞こえとるやろ!?
  何で返事せんのか?

怒りのこもった笹やんの言葉に、眉ひとつ動かすことなく
突っ立ったままのナイトーさん。。。

ま…、この場合のナイトーさんは肝が据わっているわけじゃ
なくて、単に無反応なだけですが…

  おまえ、×××に納品する冷凍枝豆の
  数量間違えたやろ!?
  56ケースなのに何で86ケースも
  出してくるんや!?
  早よ、30ケース戻してこいっ!

ナイトーさんを叱りつける笹やんですが、ナイトーさんは
例によって3無主義を貫いています。。。

別に反抗的な態度と言うわけではなく、ナイトーさんは
笹やんに言われるまま、無表情ではあるものの間違えて
出庫してしまった冷凍枝豆を、元の格納場所に戻して行き
ました。

  ったく、あいつは…
  スミマセンの一言も言わんなぁ…

そんな愚痴を言う笹やんに、先ほど、ナイトーさんが居ることを
笹やんに教えた若いバイト男子が、

  でも、ナイトーさんの実家って、
  運送屋さんなんでしょ?

と言いました。これに笹やんだけでなく、周りにいた僕らも…

  ええーっ!

ビックリしました。

そのバイト男子によりますと、ナイトーさんの実家は長崎県にあり、
彼のお父さんは運送業を営んでいるそうです。

地元では、なかなか大きな運送屋さんで、ナイトーさんは
御曹司だったのです!

  って言うか、何でオマエ…
  そんなこと知っとるんや?

笹やんがバイト男子に尋ねると、

  オレ、ナイトーさんの近くに住んでて、
  時々いっしょに帰ることがあるんで…

それで帰る途中、あれこれ話をするうち、ナイトーさんの
実家について明らかになったそうで…

  って言うか、何でオマエ…
  ナイトーと話ができるコトが
  すごいな…。

まさに笹やんが言う通りです。

ナイトーさんは、この若いバイト男子だけには心を開いていたと
言うことですか?

それよりも…

冷凍枝豆を格納庫に戻し終わって、再び無表情で作業場に
現われたナイトーさんへ…

  ナイトーくん…
  ねえ、ナイトーくんってさぁ…

急に“くん付け”で呼び始めた笹やん。。。

  長崎生まれだったの?
  オレ、福岡なんだけど…
  年に何回か、実家へ帰ったりするの?
  お父さん、元気なの?
  運送屋さんの景気はどうなの?


  ・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・


  あのさぁ…
  ナイトーくんは、将来、運送屋さんの
  社長さんになるの?


  ・・・・・・・・・・・・・
  ・・・・・・・・・・・・・


  ねえねえ、ナイトーくぅん…

アレコレ質問する笹やんに対して、無反応で固まっている
ナイトーさん…

それにしても…

彼が御曹司と知って態度を急変させる笹やん…

いったい何を企んでいるのでしょう…?
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