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笹やん 神頼み

バイト先の冷凍食品センター。

庫内の収納ラックと仕分け作業場を仕切っている一箇所の
自動ドアが故障しちゃったみたいで…

この金属製のゴツいスライドドアは、フォークリフトが
近づくとセンサーが反応して自動開閉するのですが・・

作業場側からラックに入ろうとする際、ドアに向かって
左側からリフトが来ても反応しないみたいで・・

  仕様がねぇやナァ…
  そろそろガタが来る頃だ。

などと言いながら、笹やんが脚立に上ってセンサーを
点検しています。

これまでもフォークリフトを手荒く操作してドアにぶつかったり、
パレットに山積みした商品がセンサーに接触したり・・

そんなことが何度もあったので、笹やんが言う通りガタが
来てもおかしくないようで。。。

  センサー自体はイカれてないようだな。
  センサーの向きがおかしいのか…

笹やんが、ブツブツ言いながらセンサーをいじっているのを
知らず、バイトのナカモリさんがフォークリフトに乗って、
まさに今、ドアの左側から収納ラックへ入ろうとしています。

  おい、ナカモリ!

誰かがナカモリさんを大きな声で呼びましたが・・

ピーッ、ピーッ、ピーッ…

リフトの電子音が大きいのか、ナカモリさんの耳には
届いていないらしく・・

バゴッッ!!!

ナカモリさんが乗ったリフトはドアに激突!

  あっ!

  危ねッ!

それを見ていた僕らは、口々にそんなことを言いました。

その衝撃で、バランスを崩した笹やん・・

危うく脚立から落ちそうになりましたが、何とか持ち
こたえたようで。。。

ですが…

  バカヤローーッ!
  ナカモリぃ!!

目を引きつらせつつ、笹やんが激しい怒号を発しました。

さらに…

  テメー、どこ見て乗っとるンや!
  オレがここでセンサーを
  いじっとるだろーが!
  このボケ!!

ナカモリさんの顔面にツバが飛び掛かるほどの勢いで
笹やんが怒鳴り散らしました。。。

このナカモリさんは、まだ30前ですが古株のバイトです。

まあまあ仕事は出来ますが、笹やんが言った通り「ボケ」と
言う言葉がピッタリ当てはまるようなボケを見せることが
多々あります。

もう3年ほど前でしたか、コンビニ弁当を温めようと
火が点いている石油ストーブの上に、そのまま置いて
いたことがありました…。

あの時も、笹やんからメッチャ怒鳴られてました。

あれが最大のボケでしたねぇ。

ボケを通り越して、常道を逸脱していますねぇ。。。

ほかにも商品を間違えて仕分けることが度々で。。。

センター長や笹やんからボロクソに叱られ、

  あ…、すいません。

その度に、そう言って謝っています。

謝っていますが、その表情はボーッとしたままで、そう見ても
反省していなさそうで、また近いうちに同じようなミスを
やらかすだろうなぁ…って思っていると、期待に背くこと
なく、ミスってくれます。。。


  おいおい、どーするつもりや…!
  これ見ろ!

まだ笹やんは大声を張り上げて、ナカモリさんを叱っています。

  見ろ、コレ!
  ドアがへこんでまったやろ!
  どーしてくれるンや!?

確かに、リフトがぶつかった箇所がへこんでいるようです。

幸いにもリフト後部からぶつかったので、ナカモリさん自身に
ケガはありませんでした。


  あ…、すいません。

いつも通りに謝るナカモリさん。。。

  だいたいオメーは注意が足りん!
  前から言っとるやろ!
  ちゃんと周り見ろって!

  あ…、すいません。

  すいませんじゃねーわッ!

  あ…、すいません。

  オメー、いっつもそう言って謝っとるけど、
  全然、悪いと思ってねーだろ!?
  ああン・・?

  あ…、すいません。

  テメーは…

ここで笹やん、とうとうナカモリさんの胸ぐらを掴み、揺さぶり
出しました。

  テメーというヤツは…


  あ…、すいません。


  このヤロ…


  あ…、すいません。

と、その時・・

  カチャ──────ン!!

センサーが床に落ちる音が、庫内に大きく響き渡りました。

取り付けてあったネジが緩んだのかも知れません。

  あ───っ!
    あ───っ!
   あ───っ!

    あ───っ!
  あ───っ!

僕らは一斉に、そんな声をあげました。

床に落ちたセンサーを見て、笹やんが、さらにナカモリさんの
胸ぐらを激しく揺すり、怒鳴ります。

  ナカモリーーっ!


  あ…、すいません。


  テメーのせいで…


  あ…、すいません。

・・・ここは別にナカモリさんのせいじゃないと思うんですが、
勢いに任せて笹やんが、ナカモリさんを叱るので、それに
合せ、身体をカクカクさせながら謝ってしまうナカモリさん。。。

これもまた彼の持ち味の「ボケ」でしょうか?

  しかし、マイッタなぁ。。

そう言いながら笹やんは、床上の割れたセンサーのパーツを
拾い集めます。

バイトの一人にセロテープを持って来させ、何とか貼り合わせた
ものの、多分、使い物にならないでしょうね。。。

  これじゃ、もう…

そう言って、苦い顔をする笹やん。

センター長に見つかったら、

   説教…

    弁償…

  給料天引き…

   始末書…

今の笹やんの頭の中は、それらの文字が、ふわふわ漂っている
ことでしょう。。。

パン! パン!

いきなり高らかに柏手を打つ笹やん。

  どうかこのままコサカに
  見つかりませんよーにっ!

大きな声で天井に向かって祈るのでした。

が…

  何やっとるンやて、おいっ!

既にセンター長が、笹やんの背後に立っていたのでした。。。

この絶妙なタイミングの良さ…、いや、悪さに…

僕らは思いっきり笑っちゃいました。

  見つからんワケねーだろ!
  アホか、オメーは!

今度は笹やんが怒鳴られる側に…

苦しい時の神頼み…って言いますけど、笹やんの神頼みは
一瞬にして叶わぬものとなったのでした。。。
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