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笹やん 千里眼

来月から新規得意先として取引がスタートする焼肉チェーン店。

この冷凍食品センターから、13店舗へ納品することに決まったそうです。

カルビ、ロースなどスライス状の冷凍肉の他、魚介類にスープベース、
さらにシャーベットなどのデザート類…

かなりの物量が予想されているみたいで…

朝から、センター長が、タカハシさんを連れて庫内の格納ラックや
作業場を歩き回って、あれコレ思案している様子です。

新規商品と、それらの適正在庫を予測して格納スペースを確認し、
合せて、出庫から仕分け、積込みまでの作業スペースも確認して
いるようです。

2人は、笹やんチームである僕らの作業場へ来て、何やらバインダーに
挟んだ用紙に書き込みながら、話し合っています。

  今度の焼肉屋は専用商品が
  多いです…って言うか、
  ほとんど専用ですよ。

  そうやなぁ~

  これじゃ相当、格納スペースを
  確保しておかないと…

  そうやなぁ~

  できれば、肉類、魚介類といった
  カテゴリー別にラックを分けて
  格納するんじゃなく、焼肉屋の専用商品を
  まとめて格納できるようにした方が、
  入出庫する僕らも助かりますし、
  在庫管理の点でも効率的だと思います。

  そうやなぁ~

  とは言っても、思うようにスペースを
  確保できるかどうか…

  そうやなぁ~

  少なくとも3段格納ラック、15本は
  必要になるんじゃないですか?

  そうやなぁ~

  さすがに、これはちょっと
  厳しいですよね…。

  そうやなぁ~

って、センター長、さっきから「そうやなぁ~」ばっかで…

タカハシさんがいろいろ話してるだけで、まともに話し合いに
なってない!

近くにいた笹やんも、ニヤニヤ笑いつつ、時折、冷め切った目線を
センター長へ送るのでした。。。

  現実的に見て、格納スペースが
  足りませんね。

  そうやなぁ~

  厳しくないですか?

  厳しいよね~

  でも、来月から始まっちゃうンですよね?

  始まっちゃうよねー!

  でも、何とかしないといけないンですよね?

  ああーー!
  先が見えん!

  本当に先々、厳しいですよね…。

って、どう聞いてみても、ロクな話し合いになってない!

タカハシさんは、このセンターの若手社員であり、センター長からの
信望が厚く、

  このセンターで、唯一まともな社員は
  タカハシ、一人だけだ!

センター長は、普段からそう言ってます。。。

確かに、タカハシさんは若いけど、物事に落ち着いて対処し、ミスが
なく、周囲への目配り、気配りも行き届いています。

そんなタカハシさんを、センター長は全面的に信頼しており、何か
あるとタカハシさんに意見を求め、ほぼ彼の発案通りに事が運んで
いくのです。

言い換えるならば…

センター長は、タカハシさんに任せっきり…ってコトです。。。

そのセンター長、先程からの笹やんの冷た~~い目線に気付いたのか…

  お…、何や?
  笹○、何か言いたいコトでもあるんか?

そう言ってきました。

これに対し、笹やんは、ワザと冷めた口調で、

  は…?
  何も…

と言いながら、まるでセンター長が、そこに立っていては邪魔で
あるかのように、フゥ~っとため息を吐いて商品を仕分けていく
のでした。

その瞬間、センター長の目が険しくなりました。明らかにムッと
しています。

  何でオレが、こんなまともじゃない社員から
  邪険に扱われなあかんのやっ!

センター長は、きっとそう思っていることでしょう。。。

そして、センター長は、笹やんに向かって、語気を強めて言い放ちました。

  おい、笹○!
  おまえ、自分が担当している商品の
  過剰在庫と不動在庫をなくせっ!

いきなり言われた笹やんですが、ここは冷めた口調のまま、

  は…?
  何をいきなり…

そう言って、チラッとセンター長を横目に見ます。

この態度に、ますますムッとしたらしく、

  格納スペースが足りん!

と、センター長が大声を出しました。

さらに続けて、笹やんを叱咤します。

  おまえのせいで、在庫を置くスペースが
  足りなくなっているんや!
  もうエエ加減に過剰在庫とか不動在庫を
  なくす努力をしろや!

ここで笹やん、冷めた口調から一気に声を荒げて言い返します。

  過剰在庫とか、オレだけのことじゃ
  ないでしょ!
  ほかのヤツらだって…

  おまえが一番目立つンやて!
  なぁ?
  何回も注意しとるにもかかわらずっ!
  減らそうと言う努力が全く見られん!
  おまえだけやぞ!

  減らそうとしてますよ!
  けど、それ以上に得意先は多いわ、
  その分、扱い商品は多いわ、
  その上、改廃は多いわ…
  もう何がナンだか。。。

  何がナンだか…って言いたいのは
  こっちの方や!
  おまえの在庫管理を見とると、
  ホント、何がナンだかわからんように
  なってまうわっ!

  多過ぎるンですって!
  得意先軒数が!
  これを一人でやらせようってのが
  土台、ムリじゃんねぇ!

  おまえは、何かあるとすぐにそう言って…
  だから、その分、おまえンところは、
  バイト人数もハンパなく多いやろ!
  何なら、もう少し増やしてやるから、
  来月から始まる焼肉屋、おまえ、担当な。。

  ハァーー!
  冗談はヨシ子さんですよ!

  冗談じゃないわ!

  ふざけんでください!
  この上、得意先増やされたら、
  パンクですよ!

  おまえがやれ!
  そうすれば、ちょっとは在庫に対する
  意識も変わるやろ。

  何でですか?
  どういう理屈で…?

  理屈じゃねえー!
  これを機に心を新たに、一つ一つの
  商品と向き合えっつーの!

  意味わからんじゃんねぇ!

  とにかく格納スペースがなくて
  困っとるンじゃ!

この2人の言い争いに、僕らバイトは遠慮なく笑い声をあげながら
作業を進めていますが、タカハシさんは…

笑うにも笑えず…

立ち去るにも去れず…

困惑しきって、突っ立っているだけ。。。

  あ~~、時間のムダや~
  早く出庫しなきゃいけないのに。。。

とでも思っていることでしょう。

そんなタカハシさんのことなど気にせず、2人の言い争いは続けられ
ます。。。


  格納スペースって…、
  今の、このセンターのスペースじゃ、
  ムリに決まってますよ!
  そんなの小学生でもわかるコトじゃんねぇ!

  何がムリだ!
  小学生以下の頭のおまえに
  何がわかる!?

  誰が小学生以下ですかっ!?

  そもそも、おまえの過剰在庫がなくなれば、
  かなりスペースが空くンやぞ!
  それくらいわかるよなぁ?

と、センター長は、馬鹿にし切った目線を笹やんへ送ります。

すっかり熱くなった笹やん、先程の冷めた演技はどこへやら。。

しかし、笹やんから、こんな言葉が飛び出しました。

  格納スペースだったら、ここの南側の農地を
  買い取って、田んぼを埋めて、増築すりゃ
  イイじゃないですか!

これに対し、センター長は素直に驚いた様子で…

  おまえ、何でその話、知っとるんや?

そう言いました。

  知っとるも何も!
  もはやスペースの足りない、このセンターでは
  増床するしかないでしょ!
  だとしたら、南側しかないでしょ!

わずかにドヤ顔になって笹やんが言いました。

実は、この後でタカハシさんが話してくれたのですが、センターの
南側には、確かに広い農地がありますが、ここ数年、田植えをして
いる気配はなく、農地の所有者は売却を試みているとのことで…

その土地は、宅地として、建売りで8棟を計画しているとの噂も
ある一方、本社が買い取って、このセンターを増床することを
検討中だとか…

そんなことまで知らないはずの笹やんの口から飛び出したので、
センター長、少々驚いたわけです。

で…、

そんな話をしている時、最年少の若手社員であるオーシバさんが
通り掛かりまして…

それに目を留めた笹やん、

  そうだ!
  焼肉屋の担当は、オーシバに
  やらせるべきですよ!

と、大声で言うのでした。

それを聞いて、思わず立ち止まって、こちらの方を見るオーシバさん。

  オーシバか…、
  大丈夫かな…?

やや不安げに言うセンター長。

それを無視して、笹やんは、オーシバさんを手招きしながら、

  オーシバ、ちょっと
  こっち来い!

オーシバさんを呼びました。

そのオーシバさんの肩に手を置き、笹やんがセンター長へ言います。

  若手を育てるには良い機会です。
  将来、このセンターを引っ張っていくのは
  タカハシと、このオーシバ。
  若いヤツらです。

  けど、物量は多いから…、
  今のオーシバでは難しくないか?

  何を言ってるンです!
  オレの物量に比べりゃ、そんな…
  オーシバにやらせるべきです!

  ふぅん…。

推す笹やん、迷うセンター長…

何のコトだかわからないオーシバさん本人は、口をポカンと開けて
不安げに2人の顔を見比べているだけ。。。

そんなオーシバさんの様子に、僕らはもう笑いが止まりません!

そこへタカハシさんが加わってきたのです。

  そうですね。
  オーシバさんが担当するといいかも
  知れないです。
  この頃、ミスも少なくなっているし、
  僕も出庫の方でフォローできますし。

こうしてタカハシさんまで推すので、センター長としては、

  よし、それじゃオーシバに
  やらせてみるか!

ってコトになりました。。。

で、オーシバさんの口は開いたまま。。。

ところで…

「先が見えん」とか「先々、厳しい」ってコトから始まった、
この言い争い…

笹やんの発言によって、少し見えてきたんじゃないですか・・?

農地買い取りによって、格納スペースを確保することと言い、
若手社員を育成してセンターの運営を盤石にする考えと言い…

ほぼほぼ、イイ加減な当てずっぽうではあるものの…

コレって、将来を見通した笹やんの、ちょっとした千里眼かも…。
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