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笹やん 彼岸花

午前10時15分。

バイト先の冷凍食品センターに事故の一報が入ってきました。

配送便のトラックが事故を起こしたらしいです。

  こういう季節の変わり目っつーのは
  事故が起きやすいから気ィつけろよと
  言っとるにもかかわらず、アイツは
  まったく!

と、センター長がコボしていました。

ドライバーはMさんと言う人で、主に回転寿司店へ配達して
いるそうです。

庫内の作業場へセンター長がやってきて、笹やんに声を
掛けました。

  おう、笹○、悪いけどオマエ、
  バイトを1人連れて、配達用の
  軽トラックで事故現場まで
  行って来てくれ!


  はぁーっ!?
  何でオレが…

ワザとらしく目を三角にしてセンター長に抵抗姿勢を示す
笹やん。。。

  Mのアホが事故ったんで、今日の
  納品先の店舗へ連絡したけど、
  E店だけは、どうしてもマグロ赤身と
  イクラが足りないから12時までに
  納品してくれと言ってきた。
  現場へ行ってE店の分の商品を
  抜き取って、オマエ、配達して
  きてくれ!


  はぁーっ!?
  オレ、午後から忙しくなるンで…


  仕方ねーやろ!
  こういう事態なんやで…
  なぁ?
  オマエが一番、E店方面の
  地理に詳しいやろ?


  そんなコト言われても…


  イイから行けっつーの!

イラついて声を荒げるセンター長。

  で…?
  Mの野郎、どんな事故を
  起こしたんです?

笹やんが少しニヤニヤしながら尋ねますと、

  アイツ、何を考えとるのか
  知らんけど、2.7メートルの
  高さ制限の高速道路の高架下を
  高さ3.8メートルの中型トラックで
  潜ろうとしやがって…

と、センター長が答えました。

  ワッハッハッハッハー

聞いた途端、笹やんは大笑い。

周りにいた僕らも、腹の底から笑いました。。。

  いつも通る道じゃなく、敢えて
  2.7メートルの高架下を通り抜けようと
  したってコトは、余程急いでいたんで
  しょうナァ…

呑気に笑いながら笹やんが言いました。

  そりゃまぁ慌てていたんだろうとは
  思うけどよぉ…
  こうなると間抜けとしか言いようが
  ないゾ!


  ワッハッハッハッハー

またまた大笑いの笹やん。そして、笑った後、こう言い
ました。

  そう言えば、Mの野郎、
  9月によく事故ってますよね?

すると、センター長も頷きながら、

  1年おきぐらいのペースで
  アイツは9月から10月に
  事故っとるな…。

そう言って、さらに…

  一昨年の9月だったなぁ…
  近道だと思ってとか言いやがって、
  あのアホ、田んぼの畦道を走って
  脱輪させた上、横転しやがって…。
  あの時は一軒も配達せず商品が
  全部パーになってまったわ…。

と言えば、笹やんも頷きながら話します。

  あった!あった!
  そんなアホな事故、ありましたねぇ!
  その前は、確かアイツ、荷台の後扉を
  開けたまま次の配達先へ向かいやがって…
  それで到着した時は、積んでいた商品の
  ほとんどが落っこちて…。
  走行中、全く気がつかずに到着してから
  「あれ?積み忘れかな?」とか言ってた
  らしいけど、どーしようもないアホですね。


  おう!
  あの時は警察から散々叱られたわッ!
  それに走行中、商品のダンボールが
  当たってヘコんだとか言われて
  賠償金も取られたやろ。


  さらに、あの年はアイツ、得意先の
  駐車場にトラック停めて、サイド
  ブレーキ掛けずに眠り込みやがって、
  それでズルズル後ろに下がっていくのも
  気づかず、後方のトラックにぶつけたじゃ
  ないですか?
  あれは12月でしたよね?
  年末でバタバタしてた頃だった。。。


  あったなぁ~、
  そんなコトも…。


  それと高速道路で下り坂を減速せずに
  調子に乗って走ってたらカーブで
  バランス崩して横転させたじゃないですか?
  

  おうおう!
  あの時、トラック大破させやがった
  からナァ…。
  それで本人はケガ一つしてない…。


  そう言う意味でMの野郎、
  悪運が強いンですよね。。
  毎回、大きく事故っても
  一度もケガしない!


  今回でアイツ、3台目だゾ!
  トラック潰したの…


  そこまでの事故でもケガを
  しないんですからアイツ、
  ある意味、不死身ですよね…。


  って、そんなコト言っとる場合じゃ
  ないやろ!
  おい!早よ行ってこいや!

センター長と笹やんの会話に、まさしく僕らは抱腹絶倒☆

で…

10時30分頃、笹やんは軽トラックで出発。

何故だか僕は助手席に。。。

車の中でも、Mさんの話で盛り上がりました。

さて、事故現場には50分ほどで着きました。

  うわっ!
  スゲェな…。

事故ったトラックを一目見て、すぐに笹やんと僕が口にした
言葉です。

それは、高架下に突っ込んだ勢いで荷台とコンテナが後方に
ズレており、荷台の後扉が異様なほど歪んでしまっているの
でした。。。

既に周りは野次馬がたかっていて、みんな興味深げな目で
トラックを眺めつつ、口々に何やら話し合っているようで
した。

あいにく僕は、ほとんどMさんと面識がありませんが、
笹やんは、Mさんを見つけたようで、そちらへと近づいて
いきました。

もちろん僕も、後をついていきました。

Mさんは、悲惨な状態と化したトラックの後輪から近い場所の
細い道路脇に設置されているブロックにポツンと座り込んで
いるのでした。

呆然自失…

まさしく、そんな言葉がピッタリと言うほど、

  ぽっつ~~~~ん…

と、ただただ一人で、何か考えている様子も見られず、
ボ~っと座り込んでいるのでした。

ちょっと乾いた感じの声で笹やんは、Mさんを呼びました。

するとMさんは、ゆっくり顔を上げてから、ニヤ~ッと
何とも薄気味の悪い笑い方をしました。

見たところでは、僕より少し年下…、37、38くらいだと
思いました。

小柄で、黒い野球帽を被っています。

  おい!
  警察には連絡したンか?

そう言って笹やんは、Mさんの目の前まで来て、立ち止まり
ました。

  っつーか、オマエ、ナニ考えとるんや!?
  昨日今日のドライバーじゃあるまいし!
  普通、こんな所を通り抜けようなんて
  思わんやろ!

笹やんは、Mさんが今回も無傷であることを確かめ、遠慮なしに
そんな言葉を浴びせました。

これにMさんは、ニヤ~ッと笑ったまま、

  え、ええ…
  ちょ…、ちょっと
  ウッカリしちゃってて…

などと、口ごもりながら言いますと…

  ちょっとウッカリじゃねーわっ!
  何も見とらんやないか!
  素人じゃねーんだゾ!

笹やんは大きな声で、そして少し明るい口調で言いました。
さらに…

  おい!
  さっさと後ろの扉開けて、E店分の
  商品出せや!
  ったく、オマエがこんなアホみたいな
  事故起こしたせいで、オレ、配達する
  ことになってまったやろ!

もう笹やんには、呆然としているMさんへの配慮とかいたわり
の気持ちなんてありません。。。

  立て!
  早よ商品出さんか!

まるで奴隷のようにMさんを扱う笹やん。。。

Mさんは言われたまま、ゆっくり立ち上がり、モソモソと
歪んだ扉を開きました。

異様な音が響き、何とか扉は開きましたが…

中の商品は、滅茶苦茶に崩れてます…。

  オレらじゃ、どれがE店の分なのか
  わからん!
  オマエが商品出せや!
  間違えるんじゃねーぞ!

笹やんに言われ、無言で荷台の中に上がり込み、やはり
モソモソと動くMさん。

その間、周りの野次馬の目も気になりましたが、それよりも…

現場周辺は、田畑が広がっていますが、細い道路を挟んで
ちょうど僕たちの後ろ側が空地のようになっていて、そこには
一面に彼岸花が赤々と咲いているのでした。

彼岸花の赤色は、バラの赤と違って、やや落ち着いた地味な
色合いなのですが、何だかこの時ばかりは、とても毒々しい
印象を受けました。

笹やんも、そして僕も、この一面を真っ赤に染め上げている
彼岸花に圧倒され、

  スゲェな…。

事故ったトラックを見た時と同じ言葉を口にしました。

やがて…

Mさんが、E店に納品する商品を取り出し、笹やんと僕は
軽トラックへと積み換えることに…

しかし、次第に僕らは恥ずかしくなってきたのでした。

野次馬たちは僕らを指差しながら、薄笑いを浮かべ、何か
話し合っているようでした。

たぶん…

野次馬たちから、こんなアホな事故を起こしたヤツの仲間だと
思われているわけで、笹やんと僕は、そのことがとても…

ホントにとても恥ずかしいわけで。。。

たくさんの彼岸花が毒々しく感じられたのは、そのせいかも
知れません。

秋風に揺られながら咲いている彼岸花も、僕らを嘲笑っている
かのようでした…。
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